吉澤 遼馬
2022年6月30日
最終更新: 2023年1月27日
Triangular fibrocartilage complex(TFCC)損傷は転倒などの外傷、仕事やスポーツでの過用などによって好発し、靱帯の断裂により、手関節尺側部痛や関節不安定症を生じる代表的疾患とされています。
臨床症状としては、
・前腕回内外時の不安定感、痛み
・前腕回内外、手関節尺屈等の運動時の引っ掛かり感(click)、痛み
・手関節背屈時の痛み
などを訴える方が多いです。
今回は、この「TFCC損傷」と予測するための徒手検査をご紹介します。
TFCC損傷は、外傷性と変性によるものがあり、靭帯成分の損傷と関節円板部の損傷に分けられます。
その鑑別の目安として、下記の図のようにまとめられます。
方法:
①患者の前腕、手関節を中間位とする。
②尺骨茎状突起と尺則手根屈筋腱の間に指を置き、掌側から圧迫を加える。
陽性判定:圧迫部位に痛みが出れば陽性
方法:
①患者の肘を把持し、もう一方の手で患者の手掌を把持する。
②手関節を他動的に最大尺屈させて前腕を回内外させる。
陽性判定:手関節尺側痛があれば陽性
方法:
①患者の手関節を中間位とする。
②検者は片手で患者の橈骨遠位部と手根骨を同時に把持し、もう片手で尺骨を掌背側へ動かして、DRUJ不安定性を評価
陽性判定:前腕回外位で不安定性がある時は背側靭帯損傷、回内位で不安定性がある時は、掌側靭帯損傷があると判断する
TFCC損傷は保存療法も有効との報告が散見されるため、我々セラピストの介入は重要と言えるが、組織の損傷であるため組織の修復期間に留意し医師の判断も仰いだ上で経過を見ることが最善と考えます。
まず、TFCC損傷の痛みのメカニズムを考えていきます。
基本的な考え方のとしては、
前腕回内 / 回外制限がある場合、手関節掌背屈・橈尺屈での動作代償が生じ、特に回内制限があるケースではTFCCに圧縮・剪断・牽引ストレスがかかりやすい
ことが原因の1つとして考えられます。
つまり、TFCC損傷 または それに類似した痛みを改善させるためには、前腕回内制限に関与する筋膜の機能障害を改善させることが1つの手段になると言えます。
では、具体的にどこのポイントへアプローチすればいいのか?
それは、
です。
なぜこのポイントかというと、
・第一背側骨間筋は長 / 短橈側手根伸筋の腱から起始するいくつかの線維を持っている。したがって、骨間筋の収縮は腱の直接的な伸張または筋膜の伸張を経て近位方向に広がる
・橈側手根伸筋は前腕筋膜から起始するいくつかの線維を持っている。
引用:Luigi Stecco 筋膜マニピュレーション 理論編筋骨格系疼痛治療 医歯薬出版 2011 p110
つまり、第一背側骨間筋上の筋膜が機能障害を起こすと、長 / 短橈側手根伸筋を介して前腕筋膜の機能障害を招き、前腕回内制限を引き起こす可能性があると解釈できます。
では、具体的にどのように評価を行えばいいのか?
それは、
ことです。
▼実際にはこんな感じ
皮膚の上を滑らすように丁寧に触っていくと
高密度化を起こしているケースでは、皮膚の動きまで悪く固まっているようなポイントがあります。
そこを少し圧迫してフリクションした時に痛みを訴えるような場合はそこの筋膜が硬くなっていると判断します。
では、これに対し実際にどういうアプローチをしていけばいいのか?
それは、
ことです。
▼実際にはこんな感じ
正しくアプローチできていると、
「ごりごりした感じ」と「痛み」があります。
その固さと痛みが取れるまで3分程度続けてみてください。
このアプローチは、深筋膜に対し機械的刺激と炎症反応による熱刺激を加えてヒアルロン酸の状態を変えるので、
かなりの痛みを伴います。
なので、アプローチはマイルドに行ってくださいね。
また、アプローチの目的と理由をしっかりと患者さんに説明し、同意を得てから介入してください。
さて、このアプローチを行ったら前後で荷重時痛や鑑別テストなどの症状の変化をみてみてください。
これで改善がみられるようであれば、数回に分けて介入を続けて症状の改善を目指します。(1回の介入で取り切るのは難しいです。)
・TFCC損傷の鑑別は
・fovea sign
・ulnocarpal stress test
・DRUJ ballottement test
を用いる。
・TFCC損傷の改善には
第一背側骨間筋上の筋膜
にアプローチすると有効なケースが多い。
この記事で、
◆TFCC損傷に対する鑑別方法がよくわかってなかった
◆TFCC損傷に対する治療戦略が立てられていなかった
こんなセラピストの方々のお役に立てたら嬉しいです。
今回は、
「TFCC損傷に対する鑑別方法と筋膜アプローチ」を
ご紹介しました。