吉澤 遼馬
2022年9月2日
最終更新: 2023年10月5日
僕が呼吸の大事さに気づいたのは4年前、あるセミナーに参加したのがきっかけです。当時の僕はBP(ベンチプレス)が大好きで毎日のようにBPをしていました。そのおかげで当時の僕のBPの1RMは170kgでした。
ただそのせいで肩は巻き肩、猫背という最悪な姿勢をしていました・・・
その姿勢を治したくてストレッチやリリースを試しましたが、ここまで強烈に大胸筋の出力が強いとあまり効果が実感できず、いまいちしっくり来なくてどうしたもんかと悩んでいたところでいました。
すると、友人のATの方から呼吸のセミナーを紹介していただき参加することに。
そこで呼吸について学び、まず呼吸を改善しないとこの巻き肩は治らないんだと分かり、呼吸アプローチに魅了されました。
(勿論、呼吸で全てが良くなるとは思いませんが、高確率で呼吸が乱れていると症状は良くなりません)
昔は呼吸は目新しく、参加者も少なかったですが最近はホットトピックになっていますよね!いろんな書籍やセミナーも多く開催されていて、みなさんも一度はセミナーや書籍などで呼吸について話を聞いたり、読まれたことがあるのではないでしょうか?
その中でよく解説されるのは
・口呼吸より鼻呼吸がいい
・胸式呼吸より腹式呼吸をするべき
とか・・・
書かれていますが、なぜそうする必要があるのか解説されているものは少ないかなと感じました。
あとは呼吸に関連して、自律神経や脳機能について書かれていたりします。ただどれもちゃんと繋がりを理解できるような解説がされていないので、なんでそうなるの??って思うことが多々ありました。
運動と脳機能については先日の大井先生の記事にめちゃくちゃわかりやすく書かれていますのでそちらを参照ください!!
ちなみに言うと、呼吸と脳は3密どころではないくらい密接な関係にあるので、合わせて読んで理解していただくと、みなさんの治療や運動療法のプログラムの基盤になるのではないかなと思います。
なので今回はその辺も踏まえ、僕の考える『呼吸について』を解説していこうと思います。
今回の内容は少々アカデミックになるかと思いますが、呼吸の指導をする上で知っておいてほしい大事なことになりますのでご理解ください!!
勿論、実際の呼吸のエクササイズも最後の方に載せていますので、ご期待ください。
それでは今回のテーマについて解説していきたいと思います!!
今回の記事、題して
【運動と呼吸】
どんな人に読んでほしいかというと
・呼吸について学びたい人
・呼吸の基礎が知りたい人
・運動療法に呼吸を取り入れたい人
・現在の運動療法に壁を感じている人
です!!
必ず役立つ内容になりますので最後まで講読頂ければと思います。
さて、前置きはこのくらいにして早速本題に入りたいと思います!!
呼吸を学ぶ上で大事なことは、ヒトはなぜ呼吸をするのか??を理解する必要があります。
そんな細かいことまで知る必要ある??
クライアントにそこまで説明しないからさっさとエクササイズ教えろ!!
確かに細かすぎるかもしれません・・・
クライアントには説明しない知識かもしれない・・・
ですが細かいことを理解していれば同じ内容でも理解度が全然違うのを私は実感しています。なのでぜひみなさんもここは飛ばさず、しっかりと読んでください!!
ヒトはなぜ呼吸するのか・・・それは酸素を得るためです!!
酸素は脳の栄養素で、脳機能を正常に働かせるには必要不可欠な要素で、生命の維持に最も関与するものです。
人の体というものは、第一優先が生命維持にあります。すなわち、呼吸によって酸素を適正に体内に取り込み、脳に供給することができていなければ脳は正しく機能せず、人間本来の能力を発揮できないと言うことになります。
呼吸の全てを統括しているのが、延髄にある呼吸中枢という部分になります。この呼吸中枢が呼吸の回数や速さ、長さなどを司っています。
そしてこの延髄は脳の中でも『第一の脳、脳幹』に分類されます。
脳というのは大きく分けて3つに分類できます。これを脳の三位一体論と言います。
1960年代に米国立精神衛生研究所の脳進化学者のPaul D.MacLeanによって提唱された理論で人間の脳はおおよそ3つに分類することができるというんものです。
人間の脳は
・第一の脳 脳幹 反射脳
・第二の脳 中脳 情動脳
・第三の脳 大脳 理性脳
の3つに分類され、上位の脳が下位の脳を抑制しています。(ここでいう中脳とは辺縁系になります)
脳というのは垂直方向に構成されており、脳の最も上位に存在するのが皆さんもご存知の大脳皮質になります。人間が人間らしく存在していられるのはこの大脳皮質のおかげと言っても過言ではありません。
その次に、辺縁系、中脳、脳幹という順で下降して行きます。
ここで各脳について簡単にですが解説していきます。
まずは第一の脳、脳幹(反射脳)について
目次
脳幹
中脳(辺縁系)
大脳皮質
呼吸概論
呼吸数が変動するメカニクス
呼吸の評価Control Pause(CP)
HI-LOW Test
呼吸エクササイズ
LV.1 90-90 Breathing
LV.2 90-90 Breathing(Add)
LV.3 90-90 Breathing(Add&OH)
まとめ
脳幹は視床、中脳、上丘、下丘、松果体、橋、延髄で構成されています。
脳幹の主な機能は以下になります。
・眼のスキャニング機能(サッケード)
・サーカディアンリズム
・呼吸
・嚥下
・心拍
・血圧
続いては脳の三位一体論の中脳にあたる辺縁系になります。ここでいう中脳というのは解剖学的な中脳のことではなく、あくまでPaul D.MacLeanによって大雑把に分けられた分類という認識です。
辺縁系は扁桃体、視床下部、視床、乳頭体、海馬で構成されています。主に感情などを司る部分になります。その他機能は以下になります。
・本能行動
・感情の制御
・期待報酬
・意思決定
・一次記憶
大脳皮質は脳の中で最も重要な部分の大脳の外側にある層になります。大脳皮質は下層の白質に比べ、やや色が濃いので灰白質とも呼ばれます。
大脳皮質は4つの葉と呼ばれる領域に分けられている。
・前頭葉
・頭頂葉
・側頭葉
・後頭葉
さらに、ご存知かと思いますが、大脳皮質は我々が行う運動療法の運動という部分を制御しています。言い換えるのであれば、
大脳皮質の機能がおかしく、運動を制御する前頭葉と頭頂葉が正しく機能しなけらば、体は正しく動かず、間違った動きを行い、障害のリスクを高め、
その間違った運動を正そうとしても、正しい運動の感覚を感じ取ることができないので、修正することもできないんです。
ではこの脳の機能を正しく発揮させるためにはどうしたらいいのか・・・
冒頭でもお話しましたが、呼吸なんです!!
酸素というのは、脳の栄養素であり、生命維持に不可欠!!とお伝えしました。
なので脳の栄養が足りなければ脳の機能は正常に働きませんよね??
それに加え、酸素の供給が少なければ、生命維持に関わります。すると生命維持機能を制御している脳幹が酸素を得ようと活動が活発になります。
活発になれば、オーバーヒートを起こし、異常シグナルが上位の脳に伝わります。先ほど伝えた通り、脳は垂直構造をしているので上位の脳が下位の脳幹の抑制に優先的に働き出します。
すると、大脳皮質の主な働きは、身体運動や身体感覚、新規記憶ですが、その機能を後回しに脳幹の抑制を行います。
この状態で、何か新しい動きやスキルなどを指導しようとしてもその場でできてもすぐに忘れてしまい、結果運動療法の効果が薄れてしまいます。
大袈裟に言っていますが本当のことです。
そしてこれは怪我をしている人だけに当てはまることではなく、一般の方にも当てはまります。
呼吸の機能が正常に働いていなければ、代償動作という通常の呼吸動作であれば使用しない筋などを使用して呼吸動作を行おうとします。
すると、普段使用しないので疲れるはずのない筋たちが疲れ始め、動作不良や過負荷によるなんらかの症状が出てくるんです。
そしてまた別の怪我や不定愁訴が出てきてマッサージなどにいき、また呼吸の動作不良で同じような症状が出てきてマッサージに行きの繰り返しで根本治療になりません・・・
では正しい呼吸とはなんなのか、解説して行きましょう!!
さて、ここから呼吸の話をして行きます。まずは空気というのは高圧な方から低圧の方に流れて行きます。つまり、抵抗の少ない方に流れていくということです。
なので吸気筋群によって能動的に肺胞内圧を陰圧にすることで空気が肺に流れ、呼気は受動的に肺や胸郭や吸気筋、Elastic Recoil(皮膚の弾性跳ね返り)により、肺胞内部を低圧にします。
ここで吸気筋と呼気筋をご紹介します。以下の表をご覧ください。
この図を見ると、呼吸動作に使うのは主に横隔膜と外肋間筋になり、この2つの筋が正常に働かないと他の呼吸努力筋を使用してしまいます。
見ていただければわかりますが、呼吸努力筋の多くは私たちがよく姿勢が悪くなると硬いですねと言いストレッチやリリースを行う箇所ではないでしょうか??
他にも肩こりやインピンジメントなど多くの疾患とも大きく関わります。
呼吸動作が乱れていると、そのような疾患を引き起こす原因になりうるんです!!
呼吸動作が引き起こされるメカニズムは、呼吸中枢により血中二酸化炭素濃度とph値をモニタリングしていて、通常PCO2は40mmhgですが、それを上回ると吸気中枢ニューロンの発火数が増加し、呼吸の回数が増加します。
この吸気中枢ニューロンの信号は脊髄を経由し、横隔膜や肋間筋群を支配している横隔神経や肋間神経へ伝わり吸気が起こります。
コントロールポーズとは楽に息を止めておける時間のことで、どれだけ体内に二酸化炭素をとどめておけるかをチェックする方法です!!
①少しだけ息を吸い、軽く吐く
②空気が肺に入らないように鼻を指で抑える
③息を止め始めてから明確に息を吸いたいと感じるまでの時間を測定する
④鼻から指を離し、鼻で呼吸をする。
※呼吸が乱れている場合、我慢して止めている可能性が高いため正確な数値ではないので再度測定し直す。
HI-LOW Testでは胸式呼吸優位なのか、腹式呼吸優位なのかを判別するテストになります。
ただし、このテストでわかる腹式呼吸は本当の意味での腹式呼吸になっていないことが多いので胸の膨らみが腹部の膨らみより強く出ることを確認します。
①胸部と腹部に手を乗せる
②呼吸を行い、腹部と胸部の動きを観察する。
胸部の膨らみが強ければ、肋骨が開くリブフレア状態に陥っているので、背面の筋は硬直し、横隔膜と骨盤底筋群の平衡性が取れていないので、努力性呼吸になっています。
ここからは正しい呼吸動作を引き出すためのエクササイズをレベル順に紹介して行きます。
まず、そもそも背面の筋が硬直している状態では、正しい呼吸は引き出せないので、広背筋の抑制から入ります。
そちらのエクササイズは以前の私の記事に記載されていますので参照ください。
ここでは90-90ポジションで行う呼吸エクササイズを紹介します。
①壁に足の裏をつけ、膝と股関節を90°にする
②ハムストリングにアイソメトリック収縮をかけ、少し寛骨を後傾させる
③ハムストリングの収縮感を感じたまま、鼻から腹部全体が膨らむように息を吸う
④鼻毛が揺れないように鼻から息を吐く
①壁に足の裏をつけ、膝と股関節を90°にし、膝の間にボールを挟む
②ハムストリングと内転筋にアイソメトリック収縮をかけ、少し寛骨を後傾させる
③ハムストリングと内転筋の収縮感を感じたまま、鼻から腹部全体が膨らむように息を吸う
④鼻毛が揺れないように鼻から息を吐く
①壁に足の裏をつけ、膝と股関節を90°にし、膝の間にボールを挟む
②両手をばんざいし、ハムストリングと内転筋にアイソメトリック収縮をかけ、少し寛骨を後傾させる
③ハムストリングと内転筋の収縮感を感じたまま、腰潰しをしっかり行い、鼻から腹部全体が膨らむように息を吸う
④鼻毛が揺れないように鼻から息を吐く
以上が呼吸改善のエクササイズになります。
今回は同じ種目のレベルアップをご紹介するような形にしてみました。その方が実際に使いやすく、理解がしやすいと思います。
今回ご紹介した呼吸エクササイズは1回2~3min程度行うのですが、全てのエクササイズ共通で言えることは、あまりキツくしすぎないことです。
キツいとかえって努力呼吸筋を使用してしまい、悪化の原因になってしまうので強度には十分気をつけてください。
・酸素とは脳の栄養である
・脳幹にある呼吸中枢が呼吸をコントロールしている
・脳幹が過活動になると大脳皮質がその抑制に働く
・大脳皮質が脳幹の抑制をしだすと、大脳皮質の本来の能力を使いづらくなる
・大脳皮質は身体運動と身体感覚と新規記憶
・呼吸が乱れていると運動療法をしても覚えられない
以上が、今回の記事の内容になります!!
いかがだったでしょうか??
この記事を読んで頂いて少しでも皆様の運動療法がより良いものになることを願っています!!