吉澤 遼馬

2022年7月31日

膝内側部痛で意外と多い!鵞足炎を運動療法で改善する。徹底解説!

最終更新: 2023年2月11日

私が鵞足炎を選んだ理由としては、単純に「臨床で遭遇することが多いのでは?」と考えているからです。

変形性膝関節症と診断されていても、

実は痛みの原因は鵞足炎によるものだった

ということをよく経験します。

それ以外にも膝内側の痛みの原因が鵞足炎だったということは臨床上多いと感じています。

そんな臨床でよく遭遇する鵞足炎に対して、今回、運動療法を用いたアプローチを中心にお話していきたいと思います。

それではよろしくお願い致します。

目次

  1. 鵞足とは?

  2. 鵞足炎とは

  3. なぜ鵞足部炎が起こるのか?そのメカニズム

  4. ①下腿外旋症候群

  5. ②膝関節外側偏位

  6. ③Knee in toe out

  7. 鵞足炎改善のための評価

  8. ①下腿外旋症候群に対する評価

  9. 【下腿mobility test】

  10. 【中殿筋機能評価】

  11. 【クラムシェル】

  12. 【中殿筋テスト】

  13. ②外側荷重偏位に対する評価

  14. 【Hip up test】

  15. 【片脚バランステスト】

  16. 【立方骨アライメント評価】

  17. 【腓骨アライメント評価】

  18. 鵞足炎に対する運動療法

  19. ①下腿外旋症候群改善のための運動療法

  20. 【脛骨内旋モビライゼーション】

  21. 【脛骨内旋セルフモビライゼーション】

  22. 【クラムシェル】

  23. 【中殿筋トレーニング】

  24. ②外側荷重偏位に対する運動療法

  25. 【立方骨挙上モビライゼーション】

  26. 【腓骨挙上モビライゼーション】

  27. 【Hip up】

  28. ③Knee in toe outに対する運動療法

  29. 【スクワット+股関節外旋】

  30. 【腰椎・骨盤帯stability exercise】

  31. 参考文献・サイト

鵞足とは?

鵞足は”浅鵞足”と”深鵞足”の2つに分けられます。

”浅鵞足”は半腱様筋、薄筋、縫工筋の3筋を指しており、

”深鵞足”は浅鵞足よりも深層にある筋、半膜様筋を指しています。

鵞足炎とは

半腱様筋腱、薄筋腱、縫工筋腱は脛骨の近位内側にまとまって付着・停止しています。
 
この3つの腱を総称して鵞足と呼び、この部分に起こる炎症を鵞足炎といいます。
 

 
鵞足は内側側副靭帯の表層にあり、膝の屈伸運動に伴って側副靭帯との摩擦により痛みを生じる可能性があり、またハムストリングスの一部である半腱様筋腱と薄筋腱の緊張が強いと膝関節痛の原因になるとされています。
 

 
【引用サイト】
 
1)Q-LIFE 鷲足炎とは?
 
https://www.qlife.jp/dictionary/item/i_090718000/

鵞足の脛骨付着部での過剰な牽引ストレスや側副靭帯との過度な摩擦により、炎症が起き、疼痛が出現します。


 

なぜ鵞足部炎が起こるのか?そのメカニズム

鵞足炎が起こるメカニズムの大きなポイントとして「下腿外旋」が挙げられます。

そして、下腿外旋しやすい傾向として3パターンあると考えています。

その3パターンというのが、

①下腿外旋症候群
 
②膝関節外側偏位
 
②Knee in toe out

この3つがなぜ下腿外旋を引き起こすのか?それぞれ説明します。


 

①下腿外旋症候群

まず下腿外旋症候群とは一体何なのか?

下腿外旋症候群という語彙を提唱した蒲田先生の報告では、

下腿外旋症候群とは?
 
具体的には、屈曲域での下腿外旋、伸展域でのわずかな下腿外旋、そして伸展域での脛骨外方偏位が特徴的である。
 
なお、蒲田は下腿外旋アライメントの異常は膝OAおよび若年者においても存在することを指摘し、これを下腿外旋症候群と呼んだ。
 

 
【参考文献】
 
2)山内 弘喜,下腿内旋運動を誘導するリアライン・レッグプレスが健常膝の伸展位アライメントに及ぼす効果:パイロット研究.理学療法学Supplement: 2010

としています。
 

簡単に言うと、安静時アライメントでも下腿外旋位がみられる状態のことを表しています。

この下腿外旋症候群がなぜ鵞足炎を引き起こすのか?

その答えの1つとして、下腿外旋は鷲足筋群が伸張されるポジションになることが挙げられます。

鵞足筋の筋停止部は全て「脛骨内側」「下腿筋膜」になります。

ポイントは脛骨内側に付着し、3筋ともに脛骨の内旋させる作用があるということ。

脛骨の内旋させる作用があるということは、下腿の外旋方向では鵞足筋は伸張されるポジションになります。

そのため、

簡単に言うと、安静時ですでに下腿外旋しており、鵞足に伸張ストレスがかかりやすい基盤がある。

そこから、下腿外旋症候群があると外旋位に入りやすいor過剰に外旋しやすくなっているため、鵞足停止部の伸張ストレスが大きくなるということです。

【参考文献】
 
3)蒲田和芳、変形性膝関節症に対するリアライン・プログラムの有効性と限界.臨床スポーツ医学Vol.28;2011:617−623

②膝関節外側偏位

これは荷重時に膝が外方偏位する傾向のことです。

この膝関節の外方偏位がなぜ鵞足炎と関係するのか?

その理由としては、膝関節外方偏位が起こると、下腿は大腿骨に対して相対的に外旋位になります。

そのため、荷重するたびに

膝関節外方偏位
 

 
下腿外旋方向へ
 

 
鵞足付着部のストレス

という流れになり、鵞足付着部へ大きな負担となります。

また、歩行などのダイナミックな動きの中では、下腿の外旋方向の運動を制御するために、鵞足筋群の遠心性収縮でコントロールしなければいけません。

※筋収縮の3つの種類(等尺性、求心性、遠心性)の中でも遠心性収縮は最も付着部での牽引ストレスが大きくなります。

そのため、荷重するたびに鵞足筋群は毎回過度に遠心性収縮を強要されるため、これも付着部でのストレスとなってしまうのです。

鵞足炎や膝OAの患者さんでは多くの場合、鵞足筋が過緊張しており、圧痛が著明なのは、このことが原因とされています。

では、この膝関節の外方偏位はなぜ起こるのか?

原因として多くの要素があるのですが、今回はその中の原因の1つとして

「足底の外側荷重偏位」

を挙げます。

歩行時などの荷重時に足底での荷重が外側、つまり小趾側寄りになると、

距骨下関節が回外します。

距骨下関節が回外すると運動連鎖により、

下腿が外旋・外側傾斜、膝関節は内反、外旋、大腿骨は外旋・外側傾斜、股関節は外旋となります。
 

つまり、下腿が外旋し、膝関節は外旋・内反します。

このような流れで、膝関節の外方偏位が起こり、鵞足付着部へのストレスになります。

アプローチとしては、荷重時の足底への体重の掛け方の修正が必要です。

ここで注意してもらいたいのは、変形性膝関節症などで膝自体の変形がある場合は、形態上どうしても外側荷重になってしまうことがあります。
 

 
この場合は、荷重の掛け方よりも足部自体への介入(インソールなど)の方が有効なことが多いです。

そのため、症例によって必要なアプローチや優先順位を考慮して介入していくことが大切になります。

③Knee in toe out

①、②の原因が膝内反方向の運動にるものでしたが、Knee in toe outは膝外反方向の運動にて引き起こされます。

これはよく聞いたことがあるのではないでしょうか?

Knee in toe out、つまり、大腿が内旋し、下腿が大腿骨に対して相対的に外旋位になりやすい。

下腿外旋してしまうと、鵞足付着部でストレスがかかりやすいことは先ほど説明しました。

これは女性、特に骨盤幅が狭い人に多く、また大腿四頭筋や殿筋などの下肢筋力が弱い人にもよく見られる傾向があります。

Knee in toe outしてしまう人の身体的特徴としては大きく2つ。

骨格的にどうしてもKnee in toe outしてしまう人
 
動作時の不良な運動パターンとしてKnee in toe outしてしまう人

この2つが考えられます。

この特徴によってもアプローチが変わってきます。

骨格的にどうしてもKnee in toe outしてしまう人であれば、主たる介入方法とは筋出力のバランスを調整していく必要があります。

※骨格的にKnee in toe outをどうしてもしてしまう、又はKnee in toe outの方が適している場合もあるので注意して下さい。
 
症例に合わせてアプローチを考えていくことが大切になります。


 

また、不良な運動パターンでKnee in toe outしてしまう人であれば、運動パターンや筋出力のバランスの改善に介入をしていかなれればいけません。

こちらの場合は、機能的な問題であるため、運動療法のアプローチなどにより改善可能な場合が多いです。

鵞足炎改善のための評価

先程、鷲足炎の原因として大きく3つあると説明しました。

①下腿外旋症候群
 
②外側荷重偏位
 
②Knee in toe out
 

今回は①②の評価方法をご紹介していきます。

①下腿外旋症候群に対する評価

【下腿mobility test】

下腿外旋症候群の方は多くの場合、下腿アライメントが外旋位になっています。

逆に、下腿内旋方向の可動性の制限があり、これにより下腿外旋がより起こりやすくなっていることが多いです。

そのため、まずは下腿内旋のmobilityがあるかを評価します。


 

【中殿筋機能評価】

下腿外旋症候群の方の筋出力の特徴として、

中殿筋機能が低下し、代償として大腿筋膜張筋の収縮優位

この特徴が多い印象があります。

これがなぜ下腿の外旋に繋がるのか?

理由としては大腿筋膜張筋の下腿外旋作用にあります。

中殿筋と大腿筋膜張筋はともに、股関節外転作用があります。

そのため、股関節外転時は両筋がともに働きます。この時に、中殿筋が優位の筋収縮であれば大きな問題はありません。

しかし、中殿筋の機能が低下していると多くの場合、大腿筋膜張筋が代償として優位に作用します。

大腿筋膜張筋には下腿外旋作用があるため、股関節外転するたびに、下腿は外旋方向に引っ張られ、最終的には下腿外旋アライメントを形成します。

股関節外転と言いましたが、実際の日常生活などでは立脚期での骨盤の安定性のための股関節外転作用(寛骨に対しての大腿骨の外転作用)が大切です。

この時に、大腿筋膜張筋ではなく中殿筋を主とした外転作用で動作が行われることがポイントです。

そのため、中殿筋の機能が十分にあることは下腿外旋症候群の改善にとって非常に重要です。

今回は、動作時にどの筋が優位に働いているのかを確認して評価します。

【クラムシェル】

【中殿筋テスト】

②外側荷重偏位に対する評価

これは単純に荷重時、特に歩行や動作時に体重が足底のどの部分に優位にのるのかを評価します。

基本的には、

母趾側優位であれば「内側荷重」優位
 
小趾側優位であれば「外側荷重」優位

となります。

また、理想的な足底への荷重方法としては無意識に単純な足底荷重をしてもらった時に、

母趾球、小趾球、踵の3点に均等に荷重される荷重方法

が理想的と考えています。

この荷重方法がベースになり、動作により母趾球に優位にのせたり、小趾球に優位にのせたりするのが理想です。

評価方法として、【Hip up test】【片脚バランステスト】

この動作でその人の荷重方法の癖を見極めます。

【Hip up test】

【片脚バランステスト】

https://youtu.be/L6D2hiRIQ-E

また、外側荷重の人は立方骨が落ちて、腓骨のアライメントが下制位であることが多いです。

そのため、これらのアライメントも評価します。

【立方骨アライメント評価】

https://youtu.be/MKvVNpl0x1o


 

【腓骨アライメント評価】

https://youtu.be/_jbb-PZdzbw


 

鵞足炎に対する運動療法

①〜③の原因に合わせ、それぞれ説明していきます。

①下腿外旋症候群
 
②外側荷重偏位
 
②Knee in toe out
 

①下腿外旋症候群改善のための運動療法

評価のところで、下腿外旋症候群の方は脛骨外旋位で内旋のmobilityが低下していることが多いと説明しました。

そのため、脛骨内旋のmobilityの改善のためのモビライゼーションを行います。

【脛骨内旋モビライゼーション】

【脛骨内旋セルフモビライゼーション】


 


 

股関節外転機能も大腿筋膜張筋優位になっていることが多いので、中殿筋優位の股関節動作が行えるよう、筋出力パターンの改善を行います。

【クラムシェル】

【中殿筋トレーニング】

②外側荷重偏位に対する運動療法
 

この場合、立方骨下制、腓骨下制位のアライメントであることが多いです。

そのため、アライメント修正のアプローチを行います。

また、正しい足底荷重の練習をしようと思っても、このマルアライメントがあると上手く荷重ができない場合、しにくい場合があります。

荷重練習の前にここの修正は行っておきましょう。

【立方骨挙上モビライゼーション】

https://youtu.be/MKvVNpl0x1o


 

【腓骨挙上モビライゼーション】


 
https://youtu.be/_jbb-PZdzbw


 

シンプルに足底への荷重時に外側優位にならないよう足底均等に荷重をかけるためのパターンを学習します。

【Hip up】

※アライメントの維持のために修正後、テーピングなどで保持するのも効果的です。


 

③Knee in toe outに対する運動療法

これは圧倒的に下肢筋力の弱い女性に多いです。

立ち上がりや階段昇降など、下肢の踏ん張りが必要な際に、大腿四頭筋や殿筋群が十分にある場合は問題ありません。

しかし、これらの筋力が弱い場合、内転筋も参加して動作を遂行しようとします。

この内転筋が強く働くため、股関節が内転し、Knee in toe outのような動作パターンに陥ります。

もちろん、これは多くの原因の中の1つであり、骨格の形態上どうしてもKnee in toe outしてしまう人もいます。

そのため、この骨格の形態を考慮した上でアプローチを考えていく必要があります。

大腿四頭筋や殿筋群の弱化があると、代償として股関節内転筋をより使って動作をしようとします。

そのため、動作時の負担に対応できるための最低限の大腿四頭筋や殿筋群の筋出力は欲しいところです。

荷重位での大腿四頭筋と殿筋群の出力を高めた状態でのトレーニングor動作練習を行います。

【スクワット+股関節外旋】


 

また、臨床をしている中で、階段昇降や立ち上がりなどの下肢の踏ん張りが必要な時にKnee in toe outしやすい人の特徴として、

腰椎・骨盤帯の不安定性

これ結構多いと思います。

もちろん、全員ではないですが割と多い割合で傾向あると思っています。

分かりやすいのは「歩行」。

こういう不安定性がある人の歩行を診ていると、かなり腰椎や骨盤帯の回旋や左右動揺が大きく、「お尻周りがグラグラしている」ように見えます。

腰椎・骨盤帯が安定していないということが下肢筋力にどのような影響をもたらすか?

大腿四頭筋や殿筋群、腸腰筋など体積が大きい筋肉は骨盤帯から起始している筋がほとんどです。

起始している部分が土台だとします。

腰椎・骨盤帯が不安定ということはこの土台自体がグラグラということです。

筋出力は筋の起始部分、つまり土台が安定していないと、出力が十分に出ません。

下図のようなイメージです。

そのため、このような場合のKnee in toe outを修正しようと思うと、まずは土台である腰椎・骨盤帯の安定性が必要不可欠となります。

【腰椎・骨盤帯stability exercise】

https://youtu.be/OLeoIRVeGaI

どうしてもこのようなエクササイズを行う際に「腰が浮いてしまう」などの代償が入りやすい人もいると思われます。

その場合、次のようなエクササイズで強制的にstabilityを高め、腰椎代償を抑える方法が有効です。

タオルを上位腰椎の高さの下にひき、それが抜けないように力を入れてもらいます。

両上肢で壁を押しているのは、stabilityを高めやすくするためです。


 

また、stabilityや筋出力が必要な場面を想定した場合、それに近い肢位・状況でのトレーニングを行うとより効果的です。

今回は例として、階段昇降・スポーツ動作などで多い、片側の体幹・殿部stabilityを高めた状況で反対側下肢を動かす状況でのエクササイズとして、

https://youtu.be/TUWd1b5xTNs


 

いかがでしたでしょうか?

鵞足炎に対しての評価と運動療法について、臨床でよく見られる3つのパターンを中心にご紹介させていただきました。

また、今回は鵞足炎をテーマにお話をさせて頂きましたが、

変形性膝関節症での膝内側部痛
 
膝前面痛
 
機能的問題による膝内反アライメント(O脚)

などにも有効な考え方やアプローチだと考えています。

特に”下腿外旋症候群”に関しては、膝関節に痛みを持っている方の多くに認められることが多い印象です。

痛みが出てくる前段階の所見とも考えられるため、「なんか膝に違和感がある…」などの訴えがある人にもチェックしてみて下さい。


 

今回の記事が皆さんの臨床の参考に少しでもなれれば幸いです。

最後までお読み頂き本当にありがとうございました。

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