吉澤 遼馬

1月31日

肩関節を診る上で超重要!Sucapular dyskinesisの概念と運動療法。

目次

  1. Scapula dyskinesisとは?

  2. scapular dyskinesisの3つの分類

  3. タイプ1(肩甲骨下角の突出)

  4. タイプ2(肩甲骨内側縁の突出)

  5. タイプ3(肩甲骨上縁の突出)

  6. Scapular Dyskinesisの評価方法

  7. Sucapular assistance test

  8. Sucapular retraction test

  9. Lateral sucapular slide test

  10. Scapular Dyskinesisの運動療法

  11. タイプ1に対する運動療法

  12. タイプ2に対する運動療法

  13. Bulackburn exercise

  14. Scapular clock training

  15. タイプ3に対する運動療法

  16. 僧帽筋下部のトレーニング

  17. 肩関節可動域制限に対する運動療法

  18. 【参考文献】

Scapula dyskinesisとは?

このようにdyskinesisを分解すると「Dis(喪失)」+「kynesis(運動)」となります。

定義としては「肩甲骨の運動と位置異常 」と2002年にWarnerによって定義づけされています。

もう少し噛み砕いて言うと、

「肩甲骨のアライメント異常or肩甲骨が正常に動いていない状態」

と言えます。

肩関節痛の患者さんの68%以上に認められているとも報告されています。

また、この場合の肩甲骨アライメント異常では「静的アライメントからの逸脱」を指します。

肩甲骨が正常に動いていない状態というのは、肩関節挙上時に肩甲骨の運動である

「上方回旋・後傾・外旋」

これらが制限されていたり、過剰に出ている場合を指します。

Scapula dyskinesisについて、様々な研究を通して、いくつかの確証が持てる特徴が分かってきています。

①ほとんどの肩関節疾患において高い割合で存在
 
②非常に高確率でインピンジメント症候群の要因になる
 
③肩関節機能を潜在的に悪化させる要因になる
 
④評価することで効果的な肩関節疾患の治療戦略が可能
 
【参考文献】1)W Ben Kibler:Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury 2013 consensus stateClinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury 2013 consensus statement from the `scapular summit`、Sports Med;2013:877−885

特に2つ目の「非常に高確率でインピンジメント症候群の原因になる」という点はとても重要な特徴です。

確かに臨床でもインピンジメント症候群の患者さんの肩甲骨の位置異常であったり、肩甲骨の正常な運動からの逸脱はよく見受けられます。

scapular dyskinesisの3つの分類

scapular dyskinesisは大きく3つのタイプに分類されています。

タイプによってアプローチすべきポイントが変わってきます。

そのため、その人のscapular dyskinesisがどのタイプなのかを判別することも重要になります。

【参考文献】2)Kibler, Ben W:Scapular Dyskinesis and Its Rellation to Shoulder Pain、Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons;2003:142−151

それぞれの特徴を説明します。

タイプ1(肩甲骨下角の突出)

タイプ1の特徴としては、

このような特徴が挙げられます。

ポイントは小胸筋の過緊張や短縮が多くの場合認められるということ。

なので、アプローチの第1優先としては小胸筋に対してアプローチすることが大切と説明されています。

タイプ2(肩甲骨内側縁の突出)

特徴としては、

タイプ2では、肩甲骨固定筋の機能不全で起こるscapular dyskinesisということが分かります。

そのため、アプローチの第1優先は僧帽筋、前鋸筋を含めた肩甲骨固定筋の機能改善がポイントになります。

タイプ3(肩甲骨上縁の突出)

文献では、僧帽筋上部の過剰収縮と僧帽筋下部の筋力低下にのみでしたが、肩関節の可動域制限がある方でも似たような現象が見られると思います。

(むしろ、そちらの方が臨床では圧倒的に多い気が…)

そのため、このタイプでは肩関節の可動域制限の有無を確かめ、制限がないのにこの現象が起こってしまう場合は、筋力(筋出力)の低下を確認する流れが良いと思います。

続いてそれぞれの評価方法になります。

Scapular Dyskinesisの評価方法

Sucapular assistance test

Sucapular retraction test

Lateral sucapular slide test

ただし、このテストは感度、特異度が高くなく、検者の技量によっても結果に差が出るのではないかということがいくつかの論文や研究にて懸念されています。

【参考文献】3)Perry A. Koslow:Specificity of the Lateral Scapular Slide Test in Asymptomatic Competitive Athletes、Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy; Volume 33 • Number 6 :2003

そのため、あくまでも1つの指標として使い、それ以外の検査も含めた上で評価することが正確な病態を把握する上で重要だと考えられます。

Scapular Dyskinesisの運動療法

Scapular Dyskinesisのタイプによってアプローチの優先順位が変わってきます。

先程説明したタイプ別の特徴を元にそれぞれの運動療法を紹介していきます。

イプ1に対する運動療法

タイプ1では「肩甲骨下角の突出」が見られること、そして、多くの症例で「小胸筋の過緊張or短縮」がみられることが大きな特徴でした。

なのでアプローチの第一優先は

「小胸筋の過緊張or短縮の改善」

小胸筋に対するストレッチとしては様々な方法があります。

その中でもどのストレッチ方法が最も効果的なのか?

その方法を紹介した文献があるのでご紹介します。

2006年にBorstandらによって報告された論文で、

・The doorway stretch
 
・A manual stretch(座位)
 
・A manual stretch(背臥位)

この3つの中でどの方法が最も効果的に小胸筋が伸張できたかを比較している論文です。

ピンク文字が小胸筋の伸張された量になります。(厳密には肩甲骨後傾距離。この論文では肩甲骨後傾距離を小胸筋伸張された量として評価していました。)

結果としては「The doorway stretch」が最も効果的に小胸筋が伸張されている結果となりました。

なので、自分は小胸筋の伸張が必要な患者さんには必ずこのストレッチをセルフで行うようにしてもらっています。

とても簡単で患者さんもやりやすいためオススメです^^

【参考文献】4)Borstad JD:Comparison of three stretches for the pectoralis minor muscle.、Shoulder Elbow Surg 15(3);2006:324−330

タイプ2に対する運動療法

タイプ2は「肩甲骨内側縁全体の突出」が見られ、多くの場合、前鋸筋や僧帽筋下部、菱形筋の筋出力不全・筋力低下」が認められることが特徴でした。

そのため、アプローチの第一優先は

肩甲骨固定筋(前鋸筋、僧帽筋中・下部、菱形筋)の筋機能改善

がポイントになります。

ここでは肩甲骨固定筋機能改善のための運動療法として、

・Bulackburn exercise
 
・Scapular clock training

の運動をご紹介したいと思います。

特にBulackburn exercise、Scapular clock trainingのトレーニングは、

肩甲骨の不安定性、scapular dyskinesisの改善に非常に有効であるという結果の報告が数多くされており、Scapular dyskinesisのゴールデンスタンダードな運動療法と諸海外ではされています。

【参考文献】5)Scapular Dyskinesis Presented by: Scott Sevinsky MSPT

Bulackburn exercise

【参考文献】6)Donley PB, Verna C, Moran C. Cooper J.: Managing Glenohumeral Internal Rotation Deficit (G.I.R.D)

Scapular clock training

【参考文献】7)Kibler WB: The role of the scapula in athletic shoulder function. Am J Sports Med. 1998;26(2):325-337.

タイプ3に対する運動療法

タイプ3では「肩甲骨上縁が挙上したり、Shurug sign」を認めることが多く、機能面では「僧帽筋上部の過緊張、僧帽筋下部の筋出力低下」が特徴でした。

また、実際の臨床では肩関節拘縮(可動域制限)がある症例でも似たような現象が起こることは皆さんも経験があるはずです。

そのため、文献には記載がないのですが個人的には「肩関節拘縮(可動域制限)の存在」も特徴として挙げられます。

そのため、アプローチの優先順位としては、

・僧帽筋下部の筋出力
 
・筋機能の改善・肩関節拘縮(可動域制限)の改善

この2点がポイントになってきます。

僧帽筋下部のトレーニング

僧帽筋下部のトレーニングは「フロアA 」のようなエクササイズがオススメです。

肩関節可動域制限に対する運動療法

肩関節の中でも臨床的に問題になりやすいのは肩関節後方の制限が多いのではないでしょうか?

ここの制限がやっかいな点としては、骨頭前方偏位を引き起こし、肩関節前面痛の原因になるという点が挙げられます。

改善のため肩関節後方ストレッチを行ったり、セルフストレッチ指導をしたりしますが、肩関節前面痛が邪魔をして十分に行えなかったりします。

また、セルフで行ってもらう場合、人によっては逆に肩前面痛が悪化してしまったことを経験したことがある先生は多いのではないでしょうか?

そのため、今回は肩関節前方偏位を修正しながらの肩関節後面のセルフストレッチをご紹介します。

これによって、骨頭を後方に押し込みながらストレッチを行うことで骨頭前方偏位を抑制しながら肩関節後方組織のストレッチを行うことができます。

※ただ、実際に肩関節前面に強い炎症があったり、長頭腱に損傷がある場合はこの方法でも痛みが出てしまう場合があります。この場合は、無理をせずに疼痛がでない範囲で行ってもらうようにして下さい。

以上がSucapular dyskinesisの概念と運動療法の解説になります。

特にインピンジメント症候群やスポーツでの肩関節障害との関係が深いとされるSucapular dyskinesis、ぜひ臨床でも今回ご紹介した評価や運動療法を参考にしてみて下さい。

【参考文献】

1)W Ben Kibler:Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury 2013 consensus stateClinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury 2013 consensus statement from the `scapular summit`、Sports Med;2013:877−8852)Kibler, Ben W:Scapular Dyskinesis and Its Rellation to Shoulder Pain、Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons;2003:142−1513)Perry A. Koslow:Specificity of the Lateral Scapular Slide Test in Asymptomatic Competitive Athletes、Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy; Volume 33 • Number 6 :20034)Borstad JD:Comparison of three stretches for the pectoralis minor muscle.、Shoulder Elbow Surg 15(3);2006:324−3305)Scapular Dyskinesis Presented by: Scott Sevinsky MSPT6)Donley PB, Verna C, Moran C. Cooper J.: Managing Glenohumeral Internal Rotation Deficit (G.I.R.D)7)Kibler WB: The role of the scapula in athletic shoulder function. Am J Sports Med. 1998;26(2):325-337.

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