吉澤 遼馬

3月31日

股関節の疼痛-鑑別-

目次

  1. 股関節の復習-

  2. 問診-

  3. -参考文献-

  4. あとがき-
     

股関節の復習

日本人の場合、骨盤側の屋根の部分が発育不良によってかぶりが浅い「寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)」が原因で変形性股関節症を発症する人が多いです。

その割合は約8割にものぼり、男女比では圧倒的に女性に多くみられます。さらに、割合としては少ないものの、若い頃に股関節にケガをしたことがあるとか、子どもの頃にペルテス病や大腿骨頭すべり症、先天性股関節脱臼だったという人は、中高年になってから変形性股関節症を発症することがあります。

子どもの股関節の病気は、近年、かなり減っているといわれているものの、実は、1000人に1人の割合で発症者がいます。こうした子どもの股関節の病気は、おむつのつけ方など発育中の生活習慣だけでなく、遺伝的な要因もあるといわれています。遺伝性があると分かっていれば、初回のヒアリングで質問することができ鑑別にも繋がるので結構重要です!

また、お年寄りの場合、骨盤の形は悪くなくても、関節軟骨そのものの老化によって変形性股関節症を発症してしまうことがあります。「年だから」と伝えるのではなく、しっかりとヒアリングから入り、検査をして鑑別する事で、改善できる症例も多いです。それでは具体的に問診から入って行きます。

問診-

上記はあくまでも参考ですが、股関節の痛みを訴えた時に、このくらい考えうる疾患があるという事を頭に入れておく事が重要です。

ヒアリングポイント(股関節で重要なポイント)

・代表的な疾患である変形性股関節症発症の背景となる幼少時の発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の既往や、特発性大腿骨頭壊死症の背景因子となる自己免疫疾患の罹患やステロイド治療歴、飲酒歴、その他、股関節周囲の骨折歴の有無、転移性骨腫瘍の背景となるような悪性疾患の罹患歴などに注意して病歴を聴取しましょう!そこまで症状が強くない人には省いても良い部分です。

・安静時痛の有無についても注意して問診を行う。代表的な非外傷性股関節疾患の変形性股関節症では主に歩行時・動作時に発生するため、安静時にも強い疼痛を訴える場合は化膿性関節炎を含む炎症性疾患や腫瘍性病変による骨浸食の可能性も鑑別に挙げる。

・小児期でのペルテス(Perthes)病や骨頭すべり症では病初期には股関節より同側の膝関節により強い症状を訴えることがあるため、膝関節痛を訴える小児患者には股関節疾患も念頭に置いて診察を行う。

・股関節可動時のclick、snappingなどの異常音や異常動作は、関節外病変である弾発股や関節内病変である関節唇損傷や腫瘤性病変の可能性を示唆する。ただし、股関節可動時に同時に可動する膝関節のclickなどと間違えないようにも注意をはらう。

詳細なヒアリング

①発症時期を確認する。

②誘因(重量物挙上、外傷など)を確認する。

③股関節痛の発症後の経過(改善、悪化)を確認する。

④股関節痛により具体的にどんな障害(長く歩けない、立っていられない、座っていられない、下肢に力が入らない、など)を感じているかを確認する。

⑤楽になる姿勢の有無を確認する(座ると楽になる、など)⑥安静時痛や夜間痛の有無を確認する。

-評価-

ヒアリング時の患者状態管理

【痛みの部位】

股関節が痛い。股関節からふともも前面に痛みが走る。膝関節が痛い。など

【発症形式】

以前よりときに痛みを感じていたが、○年前より痛みが強くなった。尻餅をついてから痛みのため歩行できなくなった。原因なく、突然強い痛みが発生した。など

【疼痛の性状】

歩き始めや長時間立っていると股関節に痛みを感じる。痛みのため、○○分歩くと休憩が必要である。夜間就寝中や寝返りなどでも痛みを感じる。など

※緊急対応

股関節痛を主訴とする疾患で緊急または準緊急の対応が必要な診断として、感染性股関節炎、骨折・脱臼などがあり、それぞれの診断、症状や画像・血液学的検査結果などに従い迅速な治療を行う。

-スペシャルテスト-

Patrick (FABER) test

対象:股関節疾患患者で陽性率が高く、腰椎など他領域疾患との鑑別に有用。手技:検側股関節を屈曲・外転・外旋させ、検側足部を反対側の膝の上にのせて検側股関節をさらに外旋させると疼痛と可動域制限が認められる。 コメント:仙腸関節疾患でも陽性になり得る。(感度93%/特異度84%)

Anterior impingement test

対象:femoroacetabular impingement, 前方股関節唇障害などで陽性となる手技:検側股関節を屈曲・内転・内旋させると、疼痛が誘発される。コメント:症状を有するfemoroacetabular impingement例での陽性率は88.6%であったとする報告がある。(感度 70-98%/特異度 8-44%)

Drehmann sign

対象:大腿骨頭すべり症手技:股関節の屈曲に伴い、外転・外旋位をとる場合に陽性とする

Thomas test

対象:股関節の屈曲拘縮例の検出手技:対側股関節を最大屈曲し代償性の骨盤前傾を消失させた際に、健側股関節が屈曲位となる。

Trendelenburg sign

対象:股関節疾患における中殿筋不全手技:患側の片側起立をすると、健側に骨盤が傾斜する(感度55%/特異度77%)

-鑑別疾患-

変形性股関節症のX線病期分類

変形性股関節症:日本では寛骨臼形成不全や発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)に起因する2次性の変形性股関節症の頻度が高い( 解説 解説 )。
単純X線股関節正面像で関節裂隙の減少・消失、骨棘、軟骨下骨の骨硬化像、骨嚢胞などの所見から診断を行う。

骨折(不全骨折などの軽微な骨折を含む):

単純X線であきらかな転位が認められる骨折の診断は容易であるが、骨折線や転位が明瞭でない場合にもしばしば遭遇する。疼痛の性状・部位などと照らし合わせ疑わしいときは、MRIなどの骨折に対する鋭敏な画像検査の追加を考慮する。

 ・特発性・外傷性大腿骨頭壊死症:

ステロイドの使用歴や転位のある大腿骨頚部骨折の既往などがあり疑わしい場合、単純X線やMRI検査を行い特発性大腿骨頭壊死症の診断基準に照らし合わせ診断を確認する。 

・リウマチ性疾患:

関節リウマチでは手指・手関節をはじめとする他関節障害が先行することが多く血清リウマトイド因子などの血液検査結果も照らし合わせる。診断は比較的容易である。若年男性で股関節痛を訴え臼蓋形成不全を伴わない関節裂隙の狭小化を認める場合、強直性脊椎炎も疑い仙腸関節炎の所見や腰椎X線でのbamboo spineの所見の有無を評価する。

 ・腫瘍性疾患(骨・軟部):

他領域の悪性腫瘍の既往歴や股関節の単純X線所見と強い疼痛との乖離がみられる場合、腫瘍性疾患の鑑別も考慮しMRIやCT、シンチグラフィー検査を行う。 

・股関節唇損傷:

外傷の既往のある症例や寛骨臼形成不全例で疼痛やひっかかり感を訴える場合、股関節唇損傷の鑑別も考慮し、MRIや関節造影後CTの検査を行う。

■鑑別疾患抜粋

・腰痛椎間板ヘルニア

・腰部脊柱間狭窄症

・腰部脊椎症

・仙腸関節障害

・梨状筋症候群

・骨盤部腫瘍

・鼠径ヘルニア

・大腿ヘルニア

・閉鎖孔ヘルニア

【各鑑別疾患の特徴】

前股関節症=臼蓋形成不全軟骨破壊は最も軽い時期、臼蓋形成不全があり、骨頭が十分覆われていませんが、関節裂隙(関節のすきま)は保たれている状態をいいます。
初期股関節症関節面の不適合、関節裂隙(関節のすきま)のわずかな狭小化や骨硬化(骨が硬くなること)・骨棘(骨のとげ)形成は認めますが、あっても小さい状態をいいます。
進行期股関節症骨頭周辺、臼蓋底の部分に骨棘(骨のとげ)形成を認め、関節裂隙(関節のすきま)は明らかに狭小化するものです。骨硬化(骨が硬くなること)・骨嚢胞(骨の中に穴があくこと=空洞)などの変化や出現する状態をいいます。
末期股関節症関節裂隙(関節のすきま)の消失や関節としての適合性が消失する状態をいいます。

-参考文献-

1:  西井孝: 股関節の画像診断の進め方. 整形外科臨床パサージュ3 運動器画像診断マスターガイド. 中村耕三, 吉川秀樹編. 中山書店, 2010;170-184.2:大橋寛憲ら: 股関節痛と間違いやすい痛み. 運動器の痛みプライマリケア 股関節の痛み. 菊地臣一編. 南江堂, 2011;94-103.3:Osteoarthritis Research International (OARSI)による変形性股関節症・膝関節症に対する診療ガイドライン4: Distribution of hip pain in osteoarthritis patients secondary to developmental dysplasia of the hip.Mod Rheumatol. 2013 Jan;23(1):119-24. doi: 10.1007/s10165-012-0638-55:Primary osteoarthritis of the hip joint in Japan.Clin Orthop Relat Res. 1989 Apr;(241):190-6.6: Overdiagnosed sciatica and stenosis, underdiagnosed hip arthritis.Orthopedics. 2003 Feb;26(2):173-4; discussion 174.7: 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/変形性股関節症ガイドライン策定委員会編:変形性股関節症診療ガイドライン、南江堂、2016:204-207.8:Total prosthetic replacement in rapidly destructive arthrosis of the hip joint.Clin Orthop Relat Res. 1970 Sep-Oct;72:138-44.

あとがき-

いかがでしたか?『股関節』の鑑別について記載させていただきました。最近よく患者さんの中でも『骨盤』というワードを使用して、先生に診て欲しいと訴える方が増えてきたかと思います。

先生が正しい知識と技術を持ってるかどうかで患者さんの痛みの解放スピードは大きく変わってきます。特に50代以上の方は、股関節の痛みがあるとすぐに病院にいき、間違った指導を受けることもあると聞きます。

疼痛回避モデルにもあるように、初期どのような伝え方が良いかも考えながら一緒にやって行きましょう!

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