吉澤 遼馬
2022年12月31日
最終更新: 2023年1月7日
目次
■はじめに
■アンケート結果
■手技療法ではできない領域
■寒冷療法とは
■分類
■冷却グッズ
■100均でも結構使えるものが多い
■冷却グッズまとめ
■冷却系物理療法機器
■ここからが本題です
さて、今回は寒冷療法です。
巷では
「アイシングなんていらない!」
「アイシングを行うと回復力が遅くなる!」
「受傷初期から温めたほうが早く治る!」
などなど、色々言われることが多いアイシング。
でも、現場では結構使われているアイシング。
本当に不要なのでしょうか?
本当に意味のないものなのでしょうか?
今回の記事では、知ったつもりになっているけど、意外と理解していなかった寒冷療法について、整理整頓してみましょう。
実際に不要なのかどうなのか?
また、なぜそのような論争が起こってしまうのか?についても触れたいと思います。個人的にはその答えはすでに出ています。
記事の最後にそれについても触れたいと思います。
Twitterでアイシングについてのアンケートを取ってみました。アンケートにご協力頂いた皆様、ありがとうございます!!!
多くの方が、急性外傷のみに使うという回答でした。一方で、慢性症状に使うと答えた人はごく少数でした。(というか76人中1人?w)
どちらも使うという人もかなり多いですね。
約半数の方が疼痛軽減での使用という回答。腫脹軽減も多いですね。
コメントくださいを作っても、相変わらず誰もコメントしてくれませんw
僕のフォロワーさんはほとんど柔道整復師か鍼灸師の先生方だと思いますので、必要という回答が多いです。しかし、どちらとも言えない方はおそらく効果があるんだか無いんだか判断しづらいといった印象でしょうか?
アンケート結果から言うと
①急性外傷で多くの方が使っている
②慢性症状でも使用している人もいる
③疼痛軽減で使用している人が多い
④腫脹軽減もその次に多い
⑤アイシングは必要と感じる人が多い
⑥ちょっと迷っている層も結構いる
こんなイメージが見えてきました。
ということで
1.本当に急性外傷に役立つのか?
2.慢性症状ではどのような効果を狙っているのか?
3.疼痛軽減のメカニズムは?
4.腫脹軽減は本当に出来ているのか?
5.アイシングは結局いるのか?いらないのか?
ということをこの記事で考察していきましょう。
僕は個人的にこう思うのです。
手技療法などを用いて、人の手である程度の熱を発生させることは出来ると思います。しかし、人の手で温度を下げるということは、基本的にはできませんよね?
こういった、人の手で出来ないことを、道具(狭義の物理療法)を利用して行うのです。
手技療法で局所温度を10℃以下低下させる方法はありますか?
※息の根を止めるとか言わないでくださいね(汗)
寒冷療法は、氷があれば行うことができます。
もちろん、柔道整復師の先生方は冷罨法を行わなければなりませんから、寒冷療法はなくてはならない手法ですよね。
寒冷療法とは、温度の低い液体、固体、気体を用いて寒冷曝露(寒さにさらされること)させる事により組織温度を低下させ、炎症の沈静化や神経筋活動を促す生体反応を目的として実施する物理療法のことです。
寒冷療法とは英語ではクライオセラピー(Cryotherapy)といいます。
Cryoとは低温、冷凍という意味です。
低温の熱伝導を用いた物理療法のことを指します。
ん?
低温なのに「熱」伝導とはどういうことか?
そう疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
熱伝導(ねつでんどう、英語: thermal conduction)は、固体または静止している流体の内部において高温側から低温側へ熱が伝わる伝熱現象[1]。
熱力学の第二法則により熱は必ず高温側から低温側に向かう[1]。
引用:Wiki
はい。寒冷療法の場合は 高温=人体 から 低温=氷などへ熱が伝わる現象ということです。ということは、熱を伝えるというよりも、熱を奪うというイメージのほうがわかりやすいかもしれません。
次の分類の項目で更に理解を深めていきましょう。
寒冷療法は「伝導冷却」「対流冷却」「気化冷却」の3つに分類されます。
①伝導冷却法
氷や保冷剤などで直接患部を冷却する方法
・アイスパック
・アイスマッサージ
・持続型冷却装置
②対流冷却法
空気や水などの移動を利用して冷却する方法
・アイスバス
・極低温療法
③気化冷却法
気化熱によって冷却する方法
・コールドスプレー
さて、どのように冷却されていくのか?原理が理解できたところで、様々な冷却グッズを見ていきましょう!
そのまま買い物が出来るように、なるべくトワテックさんのリンクを貼っておきます!※花上には1円も入ってこないのでご安心をw
※ここではグッズの紹介だけ行います。有料記事部分では、どのような際に活用するべきか?を考察していきます!
★トワテック アイス&ウォームバッグ
水と氷を入れればアイスバッグ(氷のう)として、お湯を入れればウォームバッグとしても使用可能です。
あれ?ということは、温熱でも使えるじゃないですか!なんと便利な!
★フレキシコールド
中身がゲル状なので、どんな凹凸にもフィット!
冷却効果が約15~20分持続するアイスパックです。
冷蔵庫に入れれば1 時間で使用可能。
マイナス20度まで固まらず、繰り返し何度も使用できます。
★NICEICE ナイスアイス
転がしながら、冷却! 1台で3役 「アイシング・マッサージ・圧迫」を同時にできます。本体を冷凍庫で1時間冷却することで、最大60分間冷たい状態を保ちます。
★スーパーコールド 500ml
◇痛めた部位から約20cm離し5秒間程度スプレー。
◇大きな噴射ボタンで素早い対応が可能。
◇部位を正確に捉えるためノズルを長くし、冷却力を約20%アップ。
◇ガス抜きキャップ採用。
★フレキシラップ
アイスバッグの固定などにご利用ください。
★Mueller エラスチックバンデージ
●伸縮性の包帯です。
●アイスバッグ、コールドパックの固定、肉離れのサポートと数多くの分野で利用可能です。
●洗濯が可能です。
★トワテック 自着性バンテージ
伸縮性があるハンドカットタイプのテープです。テープ同士がくっつき、粘着剤は肌に付かない仕様です。巻き直しができるため、圧迫などの微調整がしやすいです。
★クリッカー
容器の中に食塩と氷片を混入してよく振ると
両端が約マイナス7度にまで下がり、寒冷療法を短時間のうちに行うことが可能です。
小範囲の外傷・・疼痛・浮腫を治療するのに適しているアイスマッサージを行う際に使用します。
※クリッカーについてはネット販売はあまりありませんが、ダイヤ工業さんや、酒井医療さんや日本メディックスさんでも取り扱いはあると思います。クリッカーをご希望の方はそちらへお問い合わせください!
★アイシングシート Lサイズ
高含水体(水分約70%)により冷却効果が長く持続。
スポーツ後の冷却に最適。
粘着性が強く生地もよく伸び、どの部位にも簡単に密着。
皮膚に優しく、心地良い使用感。
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">ダイソーに行ったらアイシング関係、結構置いてありましたね。<br><br>お試しアイシングセットって何?笑<br><br>と思ったら1回分のラップと袋の様子。<br><br>救急箱に1個入れておくのもアリですかね。100円だし。<br><br>とりあえず製氷皿だけ買いました。笑 <a href="https://t.co/HASenIkl6A">pic.twitter.com/HASenIkl6A</a></p>— はなげるげ@物療+配信+WEB制作 (@hanageruge) <a href="https://twitter.com/hanageruge/status/1436192842209062968?ref_src=twsrc%5Etfw">September 10, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
なんだかんだで100円均一でもアイシング系グッズは豊富にあります。ちょっと救急箱に入れておくと便利かも?
このときは調査だけ~…と思ったのですが、院内で使う製氷皿を買って帰りました。というのも、現在使用しているアイシンググッズが、もう廃盤商品になっていたので…
それがこちらの商品。
トゥルー・アイスと言う商品名だったようですが、もう廃盤なんですよねぇ…
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">これ、割と便利なんですけどもう売ってない様子?<br><br>名前忘れてしまったので検索できない…<br><br>何となく探しだけど出てこない…<a href="https://twitter.com/hashtag/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0?src=hash&ref_src=twsrc%5Etfw">#アイシング</a> <a href="https://t.co/BDeJYdJ1dd">pic.twitter.com/BDeJYdJ1dd</a></p>— はなげるげ@物療+配信+WEB制作 (@hanageruge) <a href="https://twitter.com/hanageruge/status/1436253815070543872?ref_src=twsrc%5Etfw">September 10, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
まだ使えるのですが、結構年季が入っているので、代替品を探しているところです。
ちなみに、購入した製氷皿で作った氷がこれ。
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">患者さんにアイシングのやり方を説明する時用で、こんなのを用意してみた。<br><br>「家にあるこんな氷でこうやってアイシングして下さいね‼️」<br><br>と。<br><br>丸いのを出したらツッコまれるんだろうか?笑 <a href="https://t.co/xJT0BDD8jL">pic.twitter.com/xJT0BDD8jL</a></p>— はなげるげ@物療+配信+WEB制作 (@hanageruge) <a href="https://twitter.com/hanageruge/status/1436504871713181697?ref_src=twsrc%5Etfw">September 11, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
ちょっと大きめな氷が作りたかったのでこちらを購入しました。
正直、院内で使うのは患者さんへのアイシング指導の際に使うぐらいなので、あまり出番はありません。
院内で使用する際にはクリッカーを使用することが圧倒的に多いです。
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">コレ持ってる人ってどれぐらい居ますかね?<br><br>ってかもしかして、あんま使わない?<a href="https://twitter.com/hashtag/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC?src=hash&ref_src=twsrc%5Etfw">#クリッカー</a> <a href="https://t.co/K8BHi47Wnf">pic.twitter.com/K8BHi47Wnf</a></p>— はなげるげ@物療+配信+WEB制作 (@hanageruge) <a href="https://twitter.com/hanageruge/status/1436263471079854080?ref_src=twsrc%5Etfw">September 10, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
使用頻度はそんなに多くはありませんけどね(汗)
様々な冷却グッズを見てきました。比較的購入しやすいものが多いですよね?ということは、物理療法で寒冷療法は、割と導入しやすい部類のエネルギー療法となります。
しっかりと効果や目的を理解して使えば、かなりコスパが良いエネルギーだと思います。
次に、機器を使用した寒冷療法を見ていきましょう。
正直に申し上げますと、冷却系の物理療法機器はそんなに多くありません。また、昔あったのに廃盤となってしまった商品も多々あります。
まずは現行販売品からご紹介します。
★アイシングプロ
Ice 【冷却】
アイシングプロは、水道水で5℃~13℃のアイシングが可能です。 タイマー設定で任意の治療時間が設定できます。
Compression【密着・圧迫】
アイシングプロは、内蔵された空気室でカフが患部に密着し、適度な圧迫が行えます。
Elevation【挙上】
アイシングプロは、専用のカフにより水漏れが発生しません。 患部を心臓より高い位置に挙上することが容易に行えます。
Stabilization【固定】
アイシングプロは、カフ内に空気を入れることでカフを患部に密着・固定します。
特徴的なのは水のみで使用可能なところ。また、圧迫を行いながらのアイシングのため、腫脹軽減にも効果が高い商品だと思います。
★ドクターアクティブ コールドパッド
冷却ゲルパックとポンプ式で加圧するサポーターの組み合わせにより、負傷した関節に“冷却”と“加圧”の両方を加えることができます。術後やスポーツ外傷での痛み、炎症などの軽減に役立ちます
先程の商品は自動で加圧→除圧を行いますが、こちらは手動で行う簡易的なタイプ。また、ゲルパックを使用するので2時間冷却で30~40分の使用までとなります。
★ポーラケア コディアック
場所をとらず、簡単な準備ですぐに起動可能。
静音性・耐久性に優れた最新スペックモデルです。
術後のクライオセラピーからスポーツ現場におけるRICE処置まで、幅広い場面で使用できます。
こちらはバッテリー駆動のアイシングシステム。ポータブルで持ち運びできる利便性があります。氷を使用するタイプです。
★アイシングシステムCE4000
●前機種(CF3000)と比べ小型化、軽量化を実現。(約50%小型化、約40%軽量化)
●0℃~13℃まで冷却温度が設定可能で設定温度をキープ。
●患部への装着が簡単なCE4000用ユニバーサルパッドを開発。
●結露対策として断熱材を使用したCE4000用ユニバーサルパッドや径を太くして断熱効果を高めた専用ホースを採用。
●治療経過時間を知らせるタイマー機能を搭載。
●膝関節へのフィット性を高めるエアーフィットユニット(別売品)で効果的な冷却を実現。
専用の冷却液を機器の中が循環し、放熱を繰り返しながら使用するタイプです。この機器の面白いところは主な用途です。
冷却によるリウマチ、関節炎、神経痛の痛みの緩解、外傷による出血、腫脹、疼痛の抑制
はい。このような用途がHPに記載されています。
と、言うことは…?急性外傷のみに寒冷療法を利用しているというわけでは無いということはわかりますよね?
★GAME READY GRPRO2.1
◆冷却温度・圧迫力が調整可能
GAME READYは、氷水を使用することで冷却温度[1.7度~10度]の調整と、ラップ(カフ)圧力[圧力無・弱・中・強]の調整が可能です。さらに作動時間をコントロールすることで、持続的に快適に使用することができます。
こちらも氷水を使用したモデルになります。見た目がかっこいいですね。笑
★クライオシャワー CS-2000
液体窒素を利用して-150℃~-120℃※の超低温になったブース内に2~3分間入って全身を冷やすために使います。Whole Body Cryotherapy(WBC)は、世界のトップアスリートで活用されており、プロバスケットボール選手やサッカーナショナルチーム選手、ラグビーナショナルチーム選手をはじめ色々な競技でリカバリーに取り入れられています。近年では、日本でもプロ・アマのトップ選手のリカバリーに使われています。※冷気吹き出し口の温度です。環境や運転時間によって、冷気の温度は変わります。
さて、寒冷療法の概要と、どのようなアイテムがあるのか?はわかりました。ここからは早速、寒冷療法について、更に深く学んでいきましょう。
大まかな流れは下記の通りです。
★前半
1.生体変化・反応
2.禁忌
3.アイシング不要論に対する考察
★後半
4.種類と方法
5.現場での実際
6.アイシング不要論に対する考察②
※書いていたら思いの外ボリュームが増えてしまったので…長くても読みづらいので2回に分けて公開します。
✔なんとなくでアイシングを行っている
✔生体反応などは考えたこともない
✔アイシングは効果がないからやらないと決めつけている
✔より効果を高める方法を知りたい
✔痛みを抑える効果以外は考えたこともない
こんな方は、是非この記事を読んでみてください!
さぁ!しっかりと学びましょう!
大まかな寒冷療法の効果としては
①温度の低下
②血管収縮
③代謝活動の低下
④神経筋活動の低下
となります。
あれ?痛みは?腫れは?
コレについては、上記内容が効果として出ることにより、2次的な反応で起こるだけと理解してください。
よく、効果だけにフォーカスしてしまう方が多いのですが、結果が出るか出ないか?はやってみなければわかりません。にもかかわらず、
アイシング=痛みを抑える、腫れが治まる
という認識でいると、効果が出なかった(結果が出なかった)場合に、「アイシングが悪い」という思考に陥ってしまいます。あくまでも効果は「生体変化や反応が出た結果、効果として現れた」という認識でいましょう。これはすべての物理療法のエネルギーに言えることです。
では、1つずつ見ていきましょう。
でもその前に…
ここはまず、物理学的な話になりますがお付き合いください。
熱は高温部から低温部へ移動するエネルギーです。物体に出入りしてその温度を変化させます。
例えばお湯と氷の関係。熱は必ず高い方から低い方へ移動する。ということは、お湯を氷にかけると…
もちろん、氷は溶けますね。
では次に、このような状態をイメージしてみましょう。
常温のコップにお湯を入れた場合です。この場合は直後はお湯(液体)の温度は沸騰直後であれば100℃ですね。
数分経過すると、お湯の熱がコップに伝わります。
また、空気中にも熱がドンドン逃げて行きます。お湯よりも温度が低い環境に熱が移動している状態です。
この時に起きている現象としては
液体(お湯)→固体(カップ)
この熱の移動と
液体(お湯)→気体(空気中)
への熱の移動が行われています。
熱の移動のことを熱伝導といいます。
熱は高温側から低温側へ伝導するといいましたが、熱は物質により伝導速度が異なります。
気体より液体、液体よりは固体の方が伝導しやすくなります。
気体<液体<固体
更に時間が経過すると、お湯もカップも室温と同じ状況になり、熱の移動が止まります。これを熱平衡といいます。
別のイメージで考えてみましょう。
ここに、10℃の金属の棒があるとします。その棒に手を当てるとどうなるか?
高い温度から低い温度へ熱が移動します。
徐々にこんな形で金属が温まり、体温と同じ温度になったら温度上昇が止まります。※厳密には金属全部があたたまるわけではないので注意
ここまで説明する必要は無いと思いますが、人間は常に血液で体内の熱を運んでいます。
常に熱の移動が行われているため、かなり冷やさないと手のほうが冷えるということはありえません。
そこで、冒頭に登場した3つの方法で寒冷療法を行っていくのです。
①伝導冷却法
②対流冷却法
③気化冷却法
ここで考えなければならないのが
どれが一番熱のエネルギーを効率よく冷やすことが出来るのか?です。
気体<液体<固体
これが熱伝導の効率で大事になる要素でした。しかし、混同しないように注意しなければなりません。
気体というと、コールドスプレーとイメージしてしまいがちですが、それは違います。冷気で行う冷却法は対流冷却法になります。コールドスプレーはあくまでも「気化」なので、勘違いしないように気をつけてください。
この先は「3.種類と方法」で記載します!
寒冷療法を行うと、患部が冷えます。
当たり前ですが…(汗)
寒冷療法の面白いところは、温度が下がるということなのですが…
ここを理解していないと、寒冷療法は全く意味がなくなります。
要は
しっかりと温度が下がらないと効果が出ないということです。
アイシングを行ったから、効果が出た
のではなく
アイシングを行って温度が下がったから、それによって生体反応が起こり、効果として現れた
が正解です。
ストレッチをやっているけど、出来ていない論
と同じです。
この考えは、他の物理療法にも言えることです。
次にこの問題が出てきます。
温熱療法の場合、専門家の意見としてはこのような意見が出ております。
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">超音波治療器を用いて、温熱効果を出す場合は組織温を4℃上昇させることがポイントですね<a href="https://twitter.com/hashtag/%E7%89%A9%E7%99%82%E3%81%AE%E4%BA%BA?src=hash&ref_src=twsrc%5Etfw">#物療の人</a> <a href="https://t.co/xiiYugPK1h">pic.twitter.com/xiiYugPK1h</a></p>— 髙原佑輔@物療マニアでテーピングしながら独立開業する会社員 (@tara_therapis) <a href="https://twitter.com/tara_therapis/status/1436142883057373187?ref_src=twsrc%5Etfw">September 10, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">超音波治療器を使用している際に、約4℃の温度上昇させることが一つのポイントになってくる<br>参考値として1.0W/㎠で照射した場合、1分当たり「1MHzでは0.16℃」「3MHzでは0.58℃」組織温が上昇すると言われている<br>よって4℃上げるには1MHzの場合は約25分、3MHzの場合は約7分程度で4℃上昇を見込める</p>— 髙原佑輔@物療マニアでテーピングしながら独立開業する会社員 (@tara_therapis) <a href="https://twitter.com/tara_therapis/status/1436148922930671621?ref_src=twsrc%5Etfw">September 10, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
はい。ものすごくわかりやすい。ありがとうございます!
ということで、温熱療法に関しては、組織の温度を上げると、どうなるのか?がわかっています。
しかし、寒冷療法についてはあまり明確に組織を何℃下げればいいのか?は現在もよくわかっていません。
「○○分行った結果、○○になりました」
という研究結果は多いですが
「○○を○℃下げた事により、○○になった」
という回答は多くありません。
ですが温度について、わかっている情報がいくつかあるので、そこだけは理解しておきましょう。※これが絶対とは言えません。
皮膚温度受容器を興奮させることで起こる
↓
温冷覚受容器の興奮温度は?
↓
(2)温度受容器と痛覚受容器
温度受容器は組織局所の温度とその変化を捉える.温,冷受容器があり共に自由神経終末である.それぞれ最適温度が異なり,温受容器は 皮膚温約 32 ℃以上,45 ℃以下で興奮し,冷受容器は 10 ℃以上,30 ℃以下で興奮する.皮膚温約 32 ℃付近では外界温を感じない.この付近の温度を不感温度という.冷,温受容器が興奮しない 10 ℃以下の低温,あるいは 45 ℃以上の高温では痛覚が起こる.これはそれぞれの温度では痛覚受容器が興奮するためである.熱いものに触れたとき,かえって冷たく感じることがある.これを矛盾冷覚という.実際,冷受容器のなかに,45 ℃以上の温度で興奮するものがある.痛覚には自由神経終末が関与する.
引用:https://www.ieice-hbkb.org/files/S3/S3gun_02hen_03.pdf
ということは、30℃以下になっただけでも、冷受容器は興奮するということです。すなわち、体温36.5℃とした際に、7℃下げれば血管収縮作用は起こるであろう。
という仮定の話です。
だから海外の文献などでも、「7℃下げる」という部分を目指していると考えます。この文献に関しては筋肉の温度を下げる目的で、行っていますので、皮膚に対しての反応を見ているわけではないのでご注意ください。
また、この文献では皮下脂肪の厚さによって冷却の時間が変わるという内容が記載されています。これについては後述します。
しかし、実際に7℃下がったかどうか?の判断はなかなか難しく、7℃下がったとしても血液は常に循環しているため、その温度をキープすることは非常に難しいでしょう。
皮膚温については7℃下げる。そうすることで、血管収縮が起こります。
皮膚温度を下げると冷受容器が興奮し、血管壁の平滑筋を直接、寒冷刺激が加わり血管が収縮します。
また、組織温度が低下すると、交感神経性アドレナリン作動性ニューロンの反射を活性化します。これにより、冷却箇所に限定した血管収縮のみならず、離れた箇所でも血管収縮は起こります。
また、炎症を起こしている箇所では、炎症メディエーター(損傷した組織、および炎症部位に浸潤した白血球や肥満細胞、マクロファージなどから放出される生理活性物質。)が生成されます。
冷却療法により、これらの炎症メディエーターの増加が抑制されます。
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">< 炎症のケミカルメディエーター > <a href="https://t.co/S6QALLtB0O">pic.twitter.com/S6QALLtB0O</a></p>— 歯科医師のための一問一答 (@dent_benkyou) <a href="https://twitter.com/dent_benkyou/status/816872238699819009?ref_src=twsrc%5Etfw">January 5, 2017</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
炎症を起こすと、これらの物質が生合成されます。しかし、寒冷刺激により、その生成量は低下します。それにより、血管拡張作用が抑えられ、血流量が下がります。
皮膚温度受容器が興奮して血管壁の平滑筋を直接刺激し、血管収縮を促す。
↓
それとは別に、組織温度が低下するとヒスタミンやプロスタグランジンなどの炎症メディエーターの生成量が低下し、それらによる血管拡張作用が抑制される。
★まとめ
・7℃ぐらい下げると血管収縮は起こりやすいかも?
・冷受容器が興奮→血管の平滑筋を刺激して血管収縮が起こる
・交感神経興奮により、冷却部以外も血管収縮は起こる
・血液の粘度が上がる
細胞は酸素を消費して代謝を行い、生命活動を維持しています。
寒冷刺激を入れることで、組織温が低下し、代謝速度も低下します。
冷却による主な生理学的作用としては,血管収縮,代謝の低下,受容器や神経線維の閾値上昇、神経 一筋接合部での活動低下などがあげられるト3)。Nordstrom等 は6), 局所の冷却では温度が10℃ 低下するこ とに代謝は半減すると報告 している。
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika1996/14/1/14_1_25/_pdf
組織損傷が起こると、その部位への酸素が供給が減少します。
それだけではなく、その周囲(損傷がない部分)への酸素供給量も減少します。これにより、損傷がなかった部分に対しても二次的に損傷が起こってしまうリスクが高くなってしまいます。
このように、寒冷刺激は、損傷部分以外を守るためにも利用されています。
炎症反応を抑えることが出来る寒冷療法ですが、その反応がなければ組織は治癒しません。炎症が拡大しすぎることを防ぐ目的で行いますが、やりすぎてしまい治癒が遅くなる可能性もあります。そのあたりは十分考慮して、アイシングなどを行うようにしましょう。
★まとめ
・局所冷却は10℃低下すると代謝は半減する
・組織への酸素供給量が低下する
・二次損傷予防にも効果を発揮する
寒冷刺激により、感覚神経、運動神経の伝達速度が低下することが報告されています。
痛み刺激が侵害受容器を興奮させると、α運動線維が興奮し、過剰な筋収縮を引き起こします。それと同時に、γ運動線維が興奮することで、筋紡錘の感度も上昇してしまいます。それにより、痛み刺激が筋収縮を持続させるため、筋スパズムを併発させてしまいます。
寒冷刺激により、神経の伝達速度を低下させることにより、この2つの興奮を抑えることができます。しかし、α運動線維は寒冷刺激の影響は少ないため、どちらかと言うと、γ運動線維の興奮を抑制することで、筋スパズムを軽減する形になります。
寒冷刺激は感覚神経と運動神経のどちらの伝導速度も低下させることができます。ただし、有髄線維や小径線維の伝導に対しては大きな影響を及ぼしますが、無髄線維や大径線維の伝導に対する影響は少ないです。
こんなイメージですね。
<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">/// 末梢神経線維の分類 ///<br><br>末梢神経線維は、神経の伝達速度によってA,B,C線維に分類されます。<br>また、神経線維の直径が太いほど神経の伝達速度が速いです。<br><br>神経線維の分類については画像を参照 <a href="http://t.co/9d36T7hY9O">pic.twitter.com/9d36T7hY9O</a></p>— 医療つぶやきったー (@iryou_tubuyaki) <a href="https://twitter.com/iryou_tubuyaki/status/385010565858340864?ref_src=twsrc%5Etfw">October 1, 2013</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>
★寒冷刺激で伝導速度が低下する神経線維
γ運動線維:寒冷刺激により錘内筋の興奮が低下し筋緊張が低下
Aδ感覚線維:鋭い痛みを伝導する線維。寒冷刺激で疼痛抑制に働く
★寒冷刺激であまり変化が無い神経線維
α運動線維、C感覚線維(鈍い痛み)
このことから、鈍い痛みに対して効果がない=慢性痛にはアイシングは不向きというイメージが付いているのかもしれません。
しかし、寒冷療法は急性期のみならず、慢性症状、慢性炎症などでも使用されています。冒頭にも登場した
★アイシングシステムCE4000
です。こちらの効果に
冷却によるリウマチ、関節炎、神経痛の痛みの緩解、外傷による出血、腫脹、疼痛の抑制
と記載されていますので。こういった症状にも効果はあるのです。
さて、神経に関しては何℃温度を下げるべきかはよくわかっていません。ただし、冷却時間によっての反応が変わることはわかっています。
それは、筋力の変化です。
筋への寒冷刺激は、刺激時間によっては筋力を増強させます。適応時間が5分未満の場合、α運動ニューロンの興奮が高まるという報告があります。
これは単純に皮膚刺激が行われているから?なのかイマイチよくわかりませんが、短時間であればそういう効果も狙えるようです。
※他のやり方でいいような気がしますが…(汗)
短時間であれば、促通にも使えます。
長時間冷却した場合は、筋組織の粘性も高まるため、筋出力は一時的に低下します。
★まとめ
・寒冷刺激により、感覚神経、運動神経の伝達速度が低下する
・γ運動線維とAδ感覚線維を抑制する
・α運動線維とC感覚線維にはあまり効果が見られない
・短時間の場合にのみ、α運動線維が興奮。筋出力が上がる。
・だからといって慢性症状に使われていないわけではない
さて、ここまでで理解できたことは、寒冷療法により
・温度低下
・血管収縮
・代謝低下
・神経活動抑制
が行われている事がわかりました。
痛みに関しては神経活動の抑制が行われている以外にも、様々なメカニズムがあります。
生体組織が損傷すると、発痛物質が放出されます。
ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミンなどですね。プロスタグランジンなども出てきます。
ブラジキニンは自由神経終末にあるカプサイシン受容体であるTRPV1の興奮閾値を下げ、疼痛を感じやすくします。
…。
TRPV1!?なんじゃそら!?
と思った人も多いハズ。
はい。僕もよくわかっていません←
が、頑張って調べて沼にハマっている次第でございます。
というわけで、かなりかいつまんでお話します。
侵害刺激が起こると、自由神経終末ではこんな事が起こります。
「刺激をトランスデューサーで電気活動に変えている」
です。
???
となるかもしれませんが、そのまま行きます。笑
自由神経終末には様々なイオンチャネルがあります。イオンチャネルとは、Na+が入っていく入り口だと思ってください。
transient receptor potential ion channels
一過性の 膜電位上昇を起こす イオンチャネル
というものがあります。これがTRPチャネルです。30種類以上あります。
寒冷刺激で開くチャネルをTRPV8といいます。寒冷刺激を与えたことにより、このチャネルが開放され、Na+が自由神経終末へと流入して興奮します。
なんとなくわかりましたかね?
では、先程のTRPV1についてです。
TRPV1はカプサイシン受容体です。また、温熱刺激でも開放します。43℃以上の熱刺激が入ると侵害刺激として受容し、疼痛を発生させるのです。
通常であれば43℃が活性化温度閾値になるのですが、これが組織損傷が起こった際に、温度閾値が変化します。
ブラジキニンの濃度により温度閾値が32℃程度まで下がります。低い温度でも、疼痛を感じてしまう様になるのです。
平熱でもTRPV1が興奮するということは、安静時でも疼痛が発生しやすくなります。
炎症が起こるとブラジキニンが発生しますから、まずその発生量を抑えるために血管収縮や、代謝の低下を行う手法として、温度を下げる。その手段として寒冷療法があるわけです。
なので
アイシングってあったほうがよくないですか?
というお話です。
あー疲れた。笑
さて、ここからは禁忌です。
・寒冷過敏症
斑点、発疹が出来てしまう。判断基準としては、アイスキューブなどを用いて発赤が出るまでアイシングを行う。
その後、5~10分で発赤が消失すれば陰性。発疹、斑点が出てきた場合は陽性。陽性の場合は寒冷療法は行えない。
・寒冷不耐症
酷い疼痛や、発赤の変化が急激で、寒冷刺激に耐えられない場合
・心疾患患者
血液の粘性が上がるため、心機能に負担がかかる場合がある。
・レイノー病、レイノー現象
寒冷刺激により、四肢の毛細血管が収縮し、血行障害が生じる。しびれや痛みを感じるもの。皮膚の色は蒼白、または紫色になる状態
・クリオグロブリン血症
異常な免疫反応により、血液の粘性が高くなる疾患。
・再生中の抹消神経上
・循環不良や抹消血管疾患がある箇所
・温冷覚障害
このあたりの症状の患者さんには絶対に行わないでください。
次回、適用時間を記載していきます。ですが、その適応時間についても、あくまでも目安になりますので、患者さんが受容できる範囲内で、無理なく行ってください。
温度が低下すると何が起こるのか?
↓
様々な生体反応が起こる
また、当たり前のことを言いました。
でも、冷静に考えてみてください。
温熱療法や電気療法と異なるのは、寒冷療法はネガティブなエネルギーとも言えるのです。
と、言うのも寒冷療法で使われるキーワードは
・収縮
・抑制
・低下
など、どちらかと言うと抑え込んだり、止めたりするようなワードがたくさん出てきます。
どちらかと言うと、ネガティブなイメージが付きやすいのも仕方がないのかなと考えます。
神戸大学大学院保健学研究科の荒川高光准教授、博士後期課程大学院生(当時)川島将人らと、千葉工業大学の川西範明准教授らの研究グループは、遠心性収縮※1 モデルマウスを用いて、筋損傷に対するアイシングが筋再生を遅らせることを明らかにしました。またこの現象に、炎症性マクロファージ※2,3,4 の損傷細胞への浸潤度が関与する可能性を明らかにしました。今後、肉離れなどの重い筋損傷に対するアイシングの是非が問われていくことになります。
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_04_23_01.html
このような報告が出た後に、ネガティブな投稿をする人が結構いるのですが、これに関しては「ちょっと待てよ」が入ります。
このケースであれば、あくまでも筋組織に対する見解であり、
運動パフォーマンスに関する話ではありません。
こういう情報を深く考えずに
「アイシングは回復を遅らせるんだ-!!!」
と、言い切ってしまう極端な人が多いのが悲しいです。
自分の手数を減らさないでください。
患者さんの不利益を作らないでください。
他の人の邪魔をしないでください。
アイシングは組織修復を遅らせるかもしれない。
しかし、疼痛抑制や腫脹軽減により、機能改善を早期に早めることが出来るのであれば、全然問題ないと思いませんか?
疼痛や腫脹による動作制限が残ってしまい、機能回復が遅れてしまうほうが問題になることは多いはずです。
そういった視点で、研究やエビデンスを活用して頂きたいと思います。
善か悪かで判断しないでいただけるとありがたいです。