吉澤 遼馬

2022年6月30日

前距腓靭帯損傷(ATFL)の固定管理

最終更新: 2023年2月12日

今回は前距腓靭帯損傷(ATFL)時の固定管理について書いていきます。


 

前回記事で靭帯組織の修復過程について書いていますのでまだ読んでいない方はそちらからお読みください。


 

より具体的に臨床に近い話をします。

このタイミングでこれに変更するのね。

と参考にしていただければと思います。

それでは行きましょう。


 


 

目次

  1. 固定材の特徴

  2. 前距腓靭帯

  3. 固定の選択と変更のタイミング

  4. 最後に。

固定材の特徴

臨床で使う固定材には様々なものがあります。

キャスティングテープや包帯、キネスティックテープなど。

それぞれに特徴があり、目的があります。


 

キネスティックテープで何重に巻いたからといってキャスティングテープの固定力には遠く及びません。


 

まずそれぞれの固定材の特徴から確認していきましょう。


 

【キャスティングテープ】
 
〇特徴
 
固定力が高い
 
短時間で作成可能
 
成形に熟練度が必要
 
一度硬化すると再形成できない


 


 

【熱可塑性樹脂(プライトン、レナサーム)】
 
〇特徴
 
一度硬化しても熱を加えれば何度でも再形成できる
 
重ねる枚数により固定強度をある程度コントロールできる
 
熱湯が必要


 

【綿包帯】
 
〇特徴
 
何度でも巻き直せる
 
しっかり巻ければかなりの固定力がある
 
個人的には一番熟練度が必要
 
患者さん自身に巻き直してもらうのが難しい
 
安価


 

【弾性包帯】
 
〇特徴
 
伸縮性がある
 
患者さん自身での巻替えが容易
 
綿包帯と比べると固定力に劣る
 

 


 

【ホワイトテープ】
 
〇特徴
 
時間とともに固定力が低下する
 
皮膚トラブルのリスク高い
 
私は個人的にアンダーラップが触れない
 
(※ウレタン全般触ると鳥肌が立つ)


 

【キネスティックテープ】
 
〇特徴
 
時間とともに固定力が低下する
 
固定力は弱い
 
皮膚トラブルのリスク高い


 


 


 
このように固定材ごとで特徴が異なります。
 
どれがいい、悪いではなく時期・目的に応じて固定材を選択する必要があります。


 

今回は前距腓靭帯単独でのⅡ度損傷(部分断裂)と仮定し話を進めていきます。


 


 


 

前距腓靭帯

まずは前距腓靭帯の解剖学から。

ここから先は有料部分です


 

前距腓靭帯は腓骨下端から距骨に付着する関節包靭帯です。
 
つまり関節包が肥厚し靭帯のような強度を持ったということです。
 

 

 

 

 

 
前距腓靭帯には様々なバリエーションが確認されています。
 

 


 

バリエーションは下記のとおりです。

タイプⅠ:バンド1本 33%
 
タイプⅡ:バンド2本 57%
 
タイプⅢ:バンド3本 10%

Mutsuaki Edama (2018)Morphological features of the anterior talofibular ligament by the number of fiber bundles. Ann Anat 216:69-74


 

さらにはバンドの本数により制動機能も異なっていることが示唆されています。

Mutsuaki Edama (2019)The effect of differences in the number of fiber bundles of the anterior tibial ligament on ankle braking function: a simulation study. 41(1):69-73.

この辺りはさらっと行きますので興味ある方はご自身で調べてみてください。


 

ここからが本題です。


 

固定の選択と変更のタイミング

損傷~損傷後7から10日まで
 
受傷後、止血するために血小板や血球が凝集し血栓を形成します。この時損傷部が引っ張られるような伸張ストレスが加わると簡単に血栓は壊れてしまいます。なので損傷部の血栓を壊さないために固定が必要です。
 

 
この時私ならキャスティングテープが第一選択です。
 
損傷部の安静を測る為、最も固定力の高いものを選択します。
 
キャスティングテープを用いることで患部の安静、さらには必要以上の腫脹の抑制が期待できます。
 

 

 
キャスティングテープを均等に、適圧で浮きなく巻くことができると腫脹が抑制できます。


 

固定角度

前距腓靭帯の単独損傷だと仮定した場合、固定角度は背屈10°ぐらいを目指します。

それには前距腓靭帯の伸張角度が関係しています。

背屈5~15°で前距腓靭帯が弛緩します。

smith (1988)The influence of dorsiflexion in the treatment of severe ankle sprains: an anatomical study. Foot Ankle, 9:28-33


 
背屈15°まで持っていくと歩行がしずらいため、10°程度を目指しています。
 

 

又、足関節底屈位での固定になると踵接地ができなくなり、立脚期中期の足関節背屈が制限されてしまうため途端に歩けなくなります。

なので固定時の足関節の背屈角度には注意が必要です。


 

受傷4日後
 
炎症性の疼痛が軽減してきたら固定下での片脚立位バランストレーニングを開始します。
 

・固定強度を下げていった際の再負傷を防ぐ
 
・早期運動復帰を目指す

そのため、次を見越して早めに手を打ちます。
 
固定を除去してからバランストレーニングを開始していたのでは運動復帰が遅れてしまいます。


 


 
損傷後7日から14日頃まで
 
7日から10日経ち、前方引き出しへの抵抗感が出てきたところで、熱可塑性樹脂固定へ変更します。


 

 
この固定への変更の目的は底背屈の許容です。
 
損傷靭帯の過度な安静は靭帯の強度の低下、拘縮に繋がります。
 
特に3週以上の強固な固定は拘縮の危険性が高まる為注意が必要です。


 


 


 
10日ほど経つと、過度な底屈や内反をしなければ断端が離れることはまずありません。
 

 

 
熱可塑性樹脂に変更し歩行時の底背屈をある程度許容します。
 
ただ内外反は制限したいので足関節の固定はまだ必要です。
 

 

 
U字に足関節を形取り、上から綿包帯で固定します。


 

この時綿包帯のまき方次第で固定強度がかなり変わります。

熱可塑性樹脂の最上部(近位)と足部を浮きなく巻くことで熱可塑性樹脂が動かなくなります。


 

固定角度は底背屈0°です。

底背屈を許容する固定なので無理な背屈に持っていく必要はありません。

しかし、0°を超え底屈位になってしまうとかなり歩きにくいです。内外果と熱可塑性樹脂が接触する原因にもなります。

バランストレーニングも継続しましょう。

自宅でも安全な場所を確保し,固定下で片脚立位にてバランス保持をしてもらいます。


 

損傷後2週後
 
前方引き出しの抵抗感を確認しながら、固定強度を落としていきます。

綿包帯のみで固定するか、弾性包帯に移行するかは状況をみてという感じです。

状況というと抽象的すぎるので、具体的に私が確認しているポイントは

・エコー下での損傷靭帯断端部の抵抗性
 
・皮膚の状態
 
・バランス能力
 
などです。
 

 

 
この時期には増殖した線維芽細胞が、α-SMA陽性の筋線維芽細胞へと変化する時期です。
 

 
筋線維芽細胞は収縮能を有し損傷靭帯に長軸方向の牽引ストレスが加わります。

この時期を超えての過度な固定は拘縮を引き起こします。


 


 

固定強度を下げていく際、バランスを崩しての再負傷が怖いです。

そのために早期から徐々にバランストレーニングを開始しています。


 

運動復帰がゴールなら心肺機能を低下させないために足関節を過度に動かさない範囲での運動を行ったほうがよいでしょう。


 

バイク、上半身のトレーニングなどもいいですし、競技に生かせる運動を取り入れるのも良いでしょう。


 

1ヶ月何もせずに競技復帰しようと思うとかなりしんどいです。


 

スポーツをやっていた方は分かると思いますが、周りと1ヶ月でついた差ってかなり大きいんです。


 

思春期の学生は非常にセンシティブです。

できるだけスムーズに競技復帰させてあげるのもセラピストの仕事です。


 


 


 

損傷3週後

この時期には弾性包帯に移行します。

靭帯の強度はかなり出てきていますので、再負傷しなければ断端が離開することはまずないでしょう。


 

バランストレーニングの強度も上げ、バランスボードやバランスディスク、片脚立位でのボールコントロール(テニスボールのドリブルやリフティングなど)などを行います。


 

軽い負荷の運動から始め、徐々に負荷を上げていきます。

久しぶりにプレーができるとなると張り切りすぎてしまう可能性があるので、ここまではやっていい。というボーダーラインを決めておくといいです。


 

「全力の60%まで」など強度で管理してもいいのですが、これが今何パーセントかって、なかなか難しいので「何分はやっていい」「ランニングは何本まで」などの明確な数字でお伝えしてもいいかと思います。


 


 

損傷後4~5週

ほとんどの場合弾性包帯も必要なくなってはきますが、バランスが悪い場合は弾性包帯の継続、もしくはキネスティックテープを施します。

この時のキネスティックテープの目的は関節の固定よりも皮膚を介しての固有感覚への刺激というイメージです。

Guy G. Simoneau(1997)Changes in Ankle Joint Proprioception Resulting From Strips of Athletic Tape Applied Over the Skin. J Athl Train. 32(2): 141–147.


 


 

損傷後5週ほどでスポーツをするための靭帯強度を獲得し、その後長い年月をかけリモデリングされ損傷前の組織に構造的に機能的に修復されていきます。

鶴池政明(2001)損傷した腱・靭帯の治癒過程.大阪体育大学紀要。32:149-157


 


 

最後に。

本内容は臨床時に意識している固定の目的、変更のタイミングについて私見を述べさせていただきました。

外傷の対応時は先回りをして対応できるかどうかが非常に重要です。

そもそも、組織の正常な治癒過程が頭に入っていなければ異常に気づけません。

忘れちゃってる方は是非復習を。

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