吉澤 遼馬

2022年10月31日

伸ばしても治らんぞオスグッド!

最終更新: 3月24日

最近オスグッドの患者さんを診させてもらったというのもそうなのですが、

自分の中でオスグッドといったら「骨盤の制御!!」というのを基本のアプローチとしてたところ、同僚はそんなことは初めて聞きましたと言ったんです。他に原因はあるのかな?と思い、探ってみようと思いました。

前年の膝関節の記事でも説明しましたが、骨盤後傾は膝屈曲の外部モーメントが大きくなります。ですが、骨盤後傾していなくてもオスグッドになる選手もいますし、骨盤後傾していてもオスグッドにならない選手もいます。

そこで今回はそんなオスグッドの原因やその他の原因をさらに考察して、実際の臨床に落とし込んでいこうと思います。

それでは、少々お付き合いください!!

目次

  1. ☑オスグッドシュラッター病の原因

  2. ・論文①

  3. ・論文②

  4. ☑運動療法の考察

  5. ・骨盤と重心の制御

  6. ・大腿直筋筋厚と中間広筋の筋厚の差

  7. ・ハムストリングスの機能不全

  8. ☑運動療法の実際

  9. ・足部内在筋のトレーニング(足圧中心の前方移動)

  10. ・股関節屈曲制限の改善と片脚立位の骨盤制御

☑オスグッドシュラッター病の原因

オスグッドシュラッター病(OSD)は脛骨粗面の骨端症であり、成長中の二次骨化中心の一部が剥離し、これを硝子軟骨が覆う病態です。
 

 
OSDはスポーツを活発に行う成長期の12歳前後の男子に頻発し、発生機序としては急激な骨成長に軟部組織の成長が追い付かず大腿四頭筋が過緊張状態にあるところに、スポーツ活動による膝蓋腱のけん引力が繰り返し加わって発症するとされています。

では、どのように脛骨粗面に負担が加わり、以上のような状態になってしまうのか。
 
論文を取り上げて改善点を抽出し、最後にまとめて運動療法を提示していこうと思います。

取り上げた論文では成長期のサッカー選手においてこのような報告があります。

・論文①

・発症は軸足側で好発し、それは軸足で地面を踏ん張る際の大腿四頭筋に対する遠心性収縮により膝蓋腱が脛骨粗面を牽引することが原因であると説明している。

(1)古後晴基ら,男子高校サッカー選手におけるオスグッドシュラッター病発症後の調査,理学療法科学33(3):467‐472,2018

さらに導入でもお話ししましたが、骨盤後傾や腰椎後弯などで重心が前方に移動できないことが起きると、膝関節に対して強い膝関節屈曲外部モーメントが加わります。

また、サッカーではアジリティが必要であり、急なストップ動作や方向転換も行われるため、キック動作の軸足と同様な大腿四頭筋への遠心性収縮の負担がかかる動作が頻繁にあると考えられます。

ここで一つ目の改善すべき点として、
 
動作の際の重心の制御をどう改善していくかということです。


 
次に取り上げたを論文ではこのような報告があります。

・論文②

OSD発症後の膝伸展に関与する身体因子の特徴は、大腿直筋筋厚が厚く、中間広筋筋厚は薄いことが示され大腿四頭筋筋力が低く、ハムストリングスの筋伸長性は高いことが示唆された。

古後晴基ら,オスグッド-シュラッター病発症後のサッカー選手における膝伸展に関与する身体因子の特徴,Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy Vol.8,No.2:51-56,2018

サッカー選手と他の競技を比べると特に大腿直筋と中間広筋の差があり、それはサッカー競

技における股関節伸展膝関節屈曲からのキック動作が大腿直筋を特に発達させたとしている。

この筋厚の差をキック動作以外の場面で考えると、関節を安定させる単関節筋である中間広筋よりも、二関節筋である大腿直筋が膝関節伸展に大きく関わると考察され、抗重力位で関節の安定性が不十分な可能性があるとしています。

そのためこれを2つ目の改善点として取り上げます。
 
大腿直筋を抑制しながら単関節筋を促通するという難しい運動療法があるのか。。

実はこれに適応した運動療法があると考えています。


 
とある論文とともに後程考察と運動療法を記載していきます。

さらにこの論文から3つ目の改善点として、ハムストリングスの伸張性が高いということを上げます。

巷では
 
伸張性が高い=良いこと
 
と捉えられることが多いのではないのでしょうか。

これは間違いだと思っています。
 
筋出力に関してデータを取っていないですが、

脛骨粗面が発達することで大腿四頭筋の筋緊張が亢進し、ハムストリングスの筋緊張が低下する

Nakase J, Aiba T, Goshima K, et al.: Relationship between the skeletal maturation of the distal attachment of the patellar tendon and physical features in preadolescent male football players. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc,2014, 22(1):195-199

脛骨粗面の発達≒大腿四頭筋の緊張→筋バランスの不均衡

この文献は一つの評価ツールのようなものとして脛骨粗面の発達を見ているのだと思います。

臨床上、膝に痛みがあり大腿前面の緊張が強い方はハムが細々としている印象があるのであながち間違ってはないかと思います。

上記のような報告もあり、これはハムストリングスの改善も必要ではないかと考えます。
 

今回は以上の3点
 
・重心を前方へ移動できないパターン
 
・大腿直筋の筋厚と中間広筋の筋厚の差
 
・ハムストリングスの機能低下

これらの改善をするための運動療法を考察していきます。

☑運動療法の考察

・骨盤と重心の制御

重心が前方に移動しない理由として主に2つ挙げられます。

一つ目は足関節背屈制限あるいは足圧中心の前方移動の制限です。
 
足部では足趾伸筋群の短縮、MP関節の屈曲制限、前脛骨筋と足部内在筋の筋力低下が観察されます。
 
二つ目は股関節屈曲制限あるいは上半身重心の前方移動が制限されることです。
 
骨盤後傾、腰椎後弯傾向、の組み合わせにより上半身が後方移動するため、膝関節に対する屈曲外部モーメントが強く働きます。

福井勉,膝関節疾患の動作分析,理学療法科学,18(3):135‐139,2003

足趾伸筋群の短縮とMP関節の屈曲制限は足部内在筋の機能不全を示唆するものであり、前脛骨筋はヒールロッカーの遠心性収縮が的確に起こることが必要であると考えられます。

これらを改善させる運動療法が必要になります。


 

またキック動作におけるリスクとしてこんな報告もあります。

OSD発症群はOSD非発症群と比較して蹴り足のバックスイングが最大になるところ(軸足を接地する少し前)から軸足接地後最大屈曲になるところまで前後方向の重心移動が少なかった。
 
蹴り足バックスイングからボールにインパクトするまでの胸椎屈曲角度の変化が小さかった。

武井聖良ら,発育期サッカー選手におけるオスグッドシュラッター病の発症に関係するキック動作特性と身体要素の縦断的検討,2019

この報告をみると最初から脊柱の屈曲が強い状態または上半身の後方偏位で軸足を接地し重心が前方に移動できない状態のため軸足負担がかかり、キック時もクロスモーションが使えずに下肢に頼ったキックをしているため下肢屈筋群に負担がかかると考えられます。

軸足を踏み込む際の重心の使い方がポイントになりそうです。


 

・大腿直筋筋厚と中間広筋の筋厚の差

この差を改善していくために必要な論文を紹介します。
 
大腿直筋の筋活動パターンにはこのような報告があるようです。

二関節筋において複合運動が生じた場合、筋活動には参加するがその関節と近い部位では相反神経支配に似た現象が起こり筋活動が低くなる。
 
股関節伸展と膝関節伸展を同時に行った場合、大腿直筋は股関節屈曲と膝関節伸展の作用を持っているため、複合運動における筋活動パターンでは、大腿直筋近位部の筋活動が低くなる。

園部俊晴ら,大腿直筋の筋活動パターン特性ー遂行運動の違いが二関節筋の部位別筋活動に与える影響ー,理学療法学第29巻第7号,245‐249頁,2002

報告では中間広筋の筋活動の変化を取ってないですが、今回は大腿直筋が抑制されながら膝伸展を出すことができるというところに着目した次第です。

これはCKCで考えるとデッドリフトやスクワットなどが当てはまります。
 
筋厚を変化させるとなるとある程度の負荷を加えて行わなければなりませんがやらせるだけの価値はあると思います。

骨盤の前方偏位や上半身重心の後方偏位を修正しながら、ハムストリングスの遠心性収縮を促すことができるのもポイントです。

また、正確な動作をするためには股関節の屈曲制限も改善しなくてはいけません。

今回の記事では、デッドリフトやスクワットはやり方は調べればいくらでも出てくると思うのでそれに繋げるための運動療法を紹介していきます。
 

・ハムストリングスの機能不全

最後にハムストリングスについてです。

先ほどの論文でも紹介した通り、ハムストリングスは伸長性が高くなっている≒筋力低下が起きている可能性と骨盤後傾および上半身の後方移動の場合、短縮位になっているどちらかになっていることが予想されます。

なので、まずは筋力を上げたり、伸張性を上げたりする中で遠心性収縮が行われるように改善していきます。
 
しかし、伸張性や収縮感を患者さん本人が感じることができなかったらどうしますか??

今回はハムストリングスの感覚の入力方法も紹介していきます。


 

☑運動療法の実際

上記でどのような運動療法を行っていくか考察していきました。
 
今回はオスグッドシュラッターに対して以下の運動療法を提示していきます。
 

重心の前方移動や軸足接地、ストップ動作の改善に繋がる以下の運動を紹介します。
 
・足部内在筋のトレーニング(足圧中心の前方移動)
 
・股関節屈曲制限の改善
 
・片脚立位の骨盤制御
 
・片脚立位時の骨盤の制御トレーニング
 
・ハムストリングスの感覚トレーニング
 
・ハムストリングスの遠心性収縮
 

以前紹介した運動療法と被るところがあるので、関連記事と一緒にご覧ください。

・足部内在筋のトレーニング(足圧中心の前方移動)

足部屈筋の外在筋を緩めた状態で行う足趾屈曲運動療法です。

行ってみるとわかりますが、一般的なタオルギャザーより内在筋に効くことがわかると思います。

また、内在筋の促通ができたら前脛骨筋の収縮も同時に行っていくと、より強度の高い刺激になります。

MP関節からの屈曲を行ったらその状態のまま足関節を背屈していきます。

他にも前足部の感覚トレーニングなど以前紹介したものもございますので、ご覧ください。


 

・股関節屈曲制限の改善と片脚立位の骨盤制御

まずは股関節後方組織の伸張性を獲得していきます。
 
その後、股関節を屈曲しても骨盤が後傾位にならないように制御。
 
最終的には片脚立位時の骨盤の制御を行えるようにしていきます。

先ほども説明した通り、デッドリフトやスクワットでも必要な動作となります。

・ヒップフレクション

股関節屈曲制限は後方組織の伸張性の低下から骨頭の求心位が保てなくなることで前方のインピンジメントあるいは腸腰筋の機能不全が起きて、生じることが多いです。

CKCで屈曲内転に入ることで骨頭の後方滑りを誘導してくれます。

・ロッキング

股関節の可動性が出てきたら、骨盤中間位で上下方向の動きができるようにしていきます。
 
一番深い位置で骨盤が後傾しないように制御することが重要です。

・ニーリングオーバーヘッドスクワット

次に立ち膝で行います。

まずニーリングスクワットでも良いですが、オーバーヘッドで行うことでより骨盤と上半身の重心を意識することができます。

右の図のポジションでオーバープレスを行ってもOK!

※重度のオスグッドの場合脛骨粗面に圧が加わると痛みが生じるので、バランスパッドを引くことが必要です。

・片脚立位

これらの動作を立位で最終的に行うことが必要です。

片脚立位時に骨盤中間位で立てるかというものになりますが、この状態で足踏みをしたり、そのまま一歩前に踏み出してランジに入ったりもできます。

一つの評価にもなり、遊脚側の屈曲に伴う立脚側の骨盤制御ができるのかというのも診ることができます。

可動域を出したら終わりではなく、広がった範囲で機能的に動けるようにしてあげましょう。


 

・ハムストリングスの感覚トレーニング

上記のようにデッドリフトやスクワットができるとこまで来ました。


 
「では、さっそくデッドリフトやスクワットをやってみましょう!!」ハム「ストリングスの感覚はありますか??」
 
「伸ばされている感じや使っている感じはありますか??」

と聞いても感覚がある方ってとても少ないように感じます。
 
動作に入る前にハムストリングスの感覚を感じさせてあげるのがとても大事です。

収縮感を感じさせる方法としては
 
・姿勢はなんでも良いです。伏臥位でも、仰向けで90‐90でも。
 
・まずは膝関節屈曲90°でアイソメトリックをさせます。
 
・ここで収縮している感覚があるか聞いてみましょう。
 
・収縮している感じがないのであれば、
 
触る、押す、もしくはマッサージガンで振動刺激を入れる
 
どれかを行い再評価していきます。

伸張感を感じられない時も順序は同じです。
 
ハムストリングスのパートナーストレッチを行いストレッチ感がないのであれば
 
触る、押す、振動刺激を入れる
 
どれかを行い再評価していきます。

感覚が分かるようになってからデッドリフトやスクワットをやることで、より骨盤や上半身の制御もうまく出きるようになります。
 

・ハムストリングスの遠心性収縮

こちらの運動療法はハムストリングスの機能改善にもなりますが、軸足接地やストップ動作の基本となる運動療法となります。

地面から後方への反作用(赤矢印)を受けながら、上半身を骨盤が後傾しないように前に倒していきます。


 
ハムストリングスの伸張感を感じればOK!
 
上半身の前後移動を繰り返し刺激を入れていきます。

その後、
 
この姿勢から右股関節伸展と膝関節伸展を使って後ろにジャンプして、爆発的な力発揮することでより高強度なストップ動作の学習ができます。

以上がハムストリングスの機能改善になります。
 

☑まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回はオスグッドを患う方の身体や動作の特徴から運動療法を考察していきました。

オスグッドは休んでれば軽減するかもしれませんが、それは効率が悪い動作が故の結果であり、パフォーマンスにとってもあまり良い結果に繋がらないかと思います。

また、四頭筋が緊張してるから伸ばしましょう、ほぐしましょうではなく、

なぜそこに負担がかかるのか。

ここを評価できるとより患者さんのためになるのではないかと思います。


 


 


 

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