吉澤 遼馬

1月31日

中手骨頚部骨折プログラム

今回の記事は 「中手骨頚部骨折」についてです。

「もう中手骨頚部骨折は経験しまくって余裕」という方よりかは、「中手骨頚部骨折に遭遇したらどう対処したらいいか分からなくてガクブル」という方に向けて書いています。

とはいえ、他の人の経験を知ることは、自分の施術の引き出しを増やすことだと思いますので、ガクブルしない方もぜひ参考にしていただけたらと思います。

※ 注意点3つの注意点があります。
 
・僕の経験を元にした記事です。
 
・実際はこの記事どおりになるとも限りません。
 
・文字だけで伝わりにくいものは割愛しております。

手の外傷

手部で鑑別が必要な外傷は以下です。

☑︎手根骨の骨折
 
☑︎中手骨の骨折
 
☑︎手指の骨折

ざっくり上記で、もっと中手骨を細かく見ると

☑︎中手骨基部骨折
 
☑︎中手骨骨幹部骨折
 
☑︎中手骨頚部骨折
 
☑︎中手骨頭部骨折

そして、今回のテーマは「中手骨頚部骨折」です。

中手骨頸部骨折の概要

まずは、中手骨頚部骨折のおさらいをしていきましょう。以下の項目を見ていきたいと思います。

・発生機序
 
・所見
 
・骨片転位
 
・治療法
 
・予後

✔ 発生機序:何かを殴る。

中手骨頚部骨折は、またの名を「ボクサー骨折」とも言います。
名前のとおり、握り拳で硬いものを殴った場合に発生することが多いです。

僕が1番びっくりした受傷起点は、空の段ボールを殴ったでしたね。年齢も若い方で、相当いい具合に中手骨に外力が加わったんでしょう。

というわけで、硬いものを殴らなくても、タイミングが悪いと骨折することがあります。

✔ 所見:ナックルパートの消失、その他もろもろ

特徴的な症状はナックルパートの消失です。

受傷後、すぐに来院されなかった場合は、腫脹によりナックルパートがあるのかないのかわからない場合もあるので、忘れずに中手骨頸部の圧痛を確認する必要があります。

そして、オーバーラッピングフィンガーがないかも忘れてはいけません。

オーバーラッピングフィンガーを残したまま骨癒合してしまうと、手指の屈曲時に大きな機能障害が残ってしまいます。しっかりと、確認しましょう。

✔ 骨片転位:掌屈、短縮、回旋
 
上記のような骨片転位をします。

中手骨骨頭は掌側に傾斜するので、骨折部は背側凸で変形しています。

骨片転位を知ることは、徒手整復・固定はもちろん、起こりうる機能障害を把握する上で重要です。

✔ 治療法:保存療法・観血療法
 
基本的には、保存療法の適応になります。
 
観血療法が適応となる場合は以下で、

第2,3指→ 屈曲転位15°残存
 
第4指  → 屈曲転位30°残存
 
第5指  → 屈曲転位50°残存
 
外見を気にする人
 
突出した骨頭が手掌で何かに触れると日常生活に支障が出てしまう人

上記のような感じで、強い屈曲転位や回旋転位、短縮転位があり徒手整復をしても整復できない場合や、整復位の保持が困難な場合は日常生活に支障が出る可能性があるため、観血療法が適応される場合もあります。

一般的に考えられている屈曲転位の許容角度は、中手骨頭の並びの異常が目立たない10°〜15°です。
保存療法をやるなら完全整復を目指すべきですが、許容範囲はこれくらいです。

観血療法が適応となる場合は、X線透視下に整復し、MP関節を屈曲した状態で銅線を1〜2本刺入し固定する方法が一般的です。


手術後の固定肢位は、


MP関節屈曲
 
PIP、DIP関節軽度屈曲位

の良肢位で外固定し、4Wで外固定の除去、5〜6週で鋼線の抜去という流れになります。

※ 手指関節の拘縮固定期間が長くなりがちな、骨折では関節拘縮が起きやすくなるので、関節拘縮を起こさない配慮が、固定期間中も固定除去後も必要になります。
 
☑ 固定期間中:固定肢位による関節拘縮
 
☑ 固定除去後:後療法不足による関節拘縮
 
上記2つが起こりうることを、常に頭に入れて治療をしてく必要ありです。

✔ 後療法:手指の機能回復

固定することにより、関節の可動性や筋力低下などにより、手指の機能が結構落ちます。

指が曲がらない・伸びない
 
指が開かない
 
力が入らない

などなど。

細かくみていくと、もっとたくさんできないことがあり、それを1つ1つ解決していく必要があります。そのためには、解剖学の知識や運動学の知識が超重要です。

とはいえ、手指の機能に関しては、整復・固定の段階からすでに治療は始まっています。

固定除去後に、どれだけ手指の機能が低下していない状態を保つことができるかを考えながら治療をおこなっていくと、この時期が短くて済むので、めちゃくちゃ楽になります。

✔ 予後:転位を残すと機能障害が残る

中手骨頚部骨折はよく骨癒合する部位だと思います。
今までの経験で、偽関節や遷延治癒の症例をみたことはありませんので。

しかし、骨癒合するのはいいとしても、変形治癒したときの機能障害は結構残ります。

☑ 握力が低下する
 
☑ 伸展角度が落ちる
 
☑ 屈曲時、指が重なる

僕が経験してきた中で、印象的だったものは上記です。特に、第5指はCM関節の可動性が大きいため、しっかりと固定管理しないと結構再転位しやすいんですよね。

そして整復位を保持できないまま、変形治癒してしまうと、上記の3つのような機能障害が残ります。第5指でこういった機能障害が残るとわりと日常生活に支障が出るかもです。

実際に患者さんが困っていたこと、

☑ 握ると痛い
 
☑ 指が真っ直ぐに伸びない
 
☑ 雑巾を絞ったりする時に、第5指が重なってきて力が入りづらい

などといったことで、患者さんは困ります。

この患者さんの場合は、再転位時に状態を説明して観血療法を勧めた結果、保存療法での治療を本人が希望したため、機能障害に関してはしょうがないと納得されていたのでいいのですが、しっかりと説明をしておかないと、あとで大変なことになるのは目に見えてます。

みなさん、保存療法をするときは、医師の監督下のもと患者さんの “ 同 意 ” を得た上で行うことを忘れないようにしましょう。


 

中手骨骨折の治療プログラム

実際に僕が治療をしていく時に考えていることを、今まで解説してきたことをベースにシェアしていきます。

治療時に、具体的に注意していることは以下で、

☑ 褥瘡
 
☑ 再転位
 
☑ 拘縮

この3つを、どう防ぐかにいつも悩まされております。

✔ 中手骨頚部骨折治療時の注意点:褥瘡

手指の褥瘡は、指の屈曲角度を強めた状態で、背側からシーネを当てた時に、起こりやすいです。特にPIP関節は、必発だと思ってください。

中手骨頚部骨折の固定方法は、

MP関節 − 90°屈曲位
 
PIP関節 − 90°屈曲位

で、背側からアルフェンスシーネなどを当てるのが一般的です。そうすると、PIP関節には褥瘡ができてしまいます。

僕は、中手骨頚部骨折を最初に経験した時に、褥瘡も合わせて経験しました。

「指がもげるかと思うほど痛かった」

その時に患者さんに言われたひと言です。褥瘡を作ってしまった原因としては、

“再転位させたくない思いが強すぎて、固定をきっちり当てすぎた”

これに尽きると思います。情熱が空回りパターンです。

※ PIP関節背側の皮膚は薄く、屈曲した副子で圧迫すると皮膚の血流が悪くなり皮膚壊死を起こしやすい。厚くガーゼなどを当ててその部分の皮膚を保護する必要がある。
 
引用:骨折・脱臼 改定4版

ということです。しかし、厚くガーゼを入れてしまうと固定が動いてしまい、整復位の保持が難しくなる印象ありです。

もし、背側から当てすのであれば、PIP関節の周囲は少しゆとりができるよう、固定を作成すると良いかもです。

✔ 中手骨頚部骨折治療時の注意点:再転位

再転位が起こる原因として

・整復が不十分
 
・固定が不十分
 
・患者管理が不十分

この3つが原因としてあると考えています。

◆ 整復が不十分 ◆
 
整復の時点で屈曲転位が残っている場合は、ある程度いい位置の戻っていても、固定がかなりしっかりしたものでなければ、再転位する可能性が高いです。

基本ですが、整復の時点で、どれだけきれいに骨を整復できるかが重要だと思います。

中手骨頚部骨折整復後の患者さんを見る場合は、しっかりレントゲンを見て、整復後の状態を把握して置かなダメです。そのレントゲン画像で、どういった経過をたどる可能性があるのか判断することができるから。

レントゲンなどでは、ただ骨頭が屈曲しているだけに見えても、実際の損傷部の掌側側は骨片が粉々に粉砕している問可能性も考えられます。

こういった場合、きれいに整復されていたとしても、掌側の骨折部は不安定な状態になっている可能性もあるので、きれいに整復されているから大丈夫と気を緩めるのは、少なくても整復から2週間経過したくらいにしたほうがいいと思います。

◆ 固定が不十分◆
 
固定がうまくできていなければ、間違いなく再転位します。

中手骨のどの場所の骨折でも、2,3指と4,5指では、固定の難易度が段違いです。

“CM関節の可動性”これが関係してきます。

☑ 2,3指CM関節 → 可動性少ない
 
☑ 4,5指CM関節 → 可動性多い

第5中手骨が再転位しやすいのは、CM関節の可動性が良いからです。もし、再転位を防止したいのであれば、骨折部の安定の他に、どうやってCM関節の動きを止めるのかというのも考えなければいけません。

※ 固定方法紹介

背側アルフェンス + 横からプライトンもしくはキャストで固定する方法です。

固定方法は、再転位せず拘縮などの機能障害が起きなければ、何でも良いと思っています。なので、1つの例です。

まずは、アルフェンスなどの金属副子を背側から当てていきます。

MP関節 → 90°
 
PIP関節 → 90°
 
にて、背側からアルフェンスを当てます。

手指背側の皮膚は、先程も説明したとおり、薄いので褥瘡ができやすいです。

少しスペースを確保するか、背側の関節のカーブに合わせて、固定を調節すると、褥瘡の防止ができます。

次に、背側の金属副子が浮いてしまったりすると、整復位の保持ができなくなってしまうので、サイドからかぶせるようにプライトンなどで補強していきます。

これをやることで、固定がずれるのを防止できます。

最後に、包帯を巻いて終了です。

◆ 患者管理が不十分 ◆

整復・固定がうまくいったからといって満足していると、結構痛い目をみます。

「患者さんがアクティブで動きまくってしまう。」

これは骨折治療を難航させる原因以外の何物でもありません。

でも、患者さんがアクティブで動きまくってしまうのは、患者さんが悪いわけではないです。

“自分の説明不足…”

これだけです。

治療は、自分の技術がどれだけすごくても、患者さんの協力なしにはうまくいきません。

そこのところを患者さん自身にしっかりと理解してもらう必要があります。

1、現在の骨折部の状態と今後の治療の見通し
 
2、最悪のパターン
 
3、それを回避するためにしてほしいこと・してほしくないこと

最低でも、これくらいは患者さんに説明して理解してもらっておかないと、スムーズに治療がすすめられないかもです。

✔ 中手骨頸部骨折治療時の注意点:拘縮拘縮をなるべく起こさないための、治療の流れを参考までに提示します。

受傷〜2週 再転位を起こさせない期間
 
2週〜3週 固定肢位の変更/固定部位以外のROMエクササイズ
 
3週〜4週 骨折部を把持しつつ他動にてROMエクササイズ
 
4週〜   機能回復のリハビリ

上記になります。基本的にはDr.の指示の元、レントゲンの状態などを加味して拘縮に対して治療をしていきます。

少し詳しく解説していきます。

◆ 受傷〜2週 再転位を起こさせない期間 ◆
 
10日くらいまでは骨折部は不安定な状態なので、再転位させないことに全神経を集中させます。

例えば、

・固定を外す時骨折部が動揺しない工夫をする
 
・患者さんの日常生活
 
・拘縮予防のためのROMエクササイズ

などで、しっかり整復したとしても、注意してみていかないと簡単に再転位します。

特に、先程も話したように患者さんに理解してもらうことはすごく重要です。

ちなみに、固定を外すときは、患者さんにこんな感じで持ってもらうことが多いです。

基節骨を使って骨頭を押し上げるようにもってもらいましょう。

10日程度経過して、再転位の兆候がなければ、固定部以外の関節のROMエクササイズを他動にて徐々に開始してOKです。

手指は早い段階で拘縮し始めるので、安定性が確認できたらすかさず拘縮予防といった流れは必須です。

◆ 2週〜3週 固定部位以外のROMエクササイズ/固定肢位の変更 ◆
 
3週間前後で、拘縮の事も考えて、固定肢位を良肢位に戻していきたいところです。ここの切り替えのタイミングは難しいところです。

1つの山を乗り越えてほっとしてると、拘縮が起きて指が動かなくなってしまいます。

前の週と同じように、固定していない関節のROMは積極的におこないつつ、3週目に向かうにつれて、固定を外した時に、骨折部を把持しながら少しずつ、固定している関節の他動でのROMエクササイズを開始していってもいいかもしれないです。

◆ 3週〜4週 骨折部を把持しつつ他動にてROMエクササイズ ◆
 
この時期に入ったら、再転位のことよりも、拘縮が起こらないように、固定を外した時に機能障害が少なくて済むように立ち回って行ったほうがいいです。

・患者さんには、再転位しないように生活には気をつけてもらう・術者は、再転位のことよりも機能障害がなるべく起こらないように行動していく

ポイントは上記です。

骨折部の圧痛もこの時期はだいぶ軽減していると思います。圧痛が軽減していれば、骨の安定性もだいぶ高くなっているという解釈です。

なので骨折部は把持しつつですが、痛みが出ない範囲で他動にてROMエクササイズです。

◆ 4週〜   機能回復のリハビリ ◆
 
固定も外れて、機能回復のリハビリが開始されます。

固定期間中に、段階的に拘縮の予防ができていれば、スムーズにリハビリが終了する事が多いです。

年齢が高くなるにつれて、拘縮するスピードが早くなるので、固定期間中に拘縮に対してしっかり対応しておかないと、リハビリが大変なんですよね。

今回は、自宅でできる手指の可動域制限に対するホームエクササイズを紹介したいと思います。

★ DIP関節のROMエクササイズ

DIP関節以外の関節を伸展位に保持し、DIP関節単独での可動域を改善させるエクササイズです。

★ PIP関節のROMエクササイズ

PIP関節以外の関節を伸展位に保持し、PIP関節単独での可動域を改善させるエクササイズです。

★ MP関節のROMエクササイズ

MP関節以外の関節を伸展位に保持し、MP関節単独での可動域を改善させるエクササイズです。

★ 外在筋のエクササイズ

外在筋を優位に働かすためのエクササイズです。

★ 内在筋のエクササイズ

内在筋を優位に働かすためのエクササイズです。きれいに手指の伸展が出ない時におすすめのエクササイズです。

慣れてきたら、輪ゴムなどを使って負荷を上げてあげるとより効果的です。

これを毎日、痛みが長引かない程度におこなってもらいます。

できれば、回数を多く頻繁にやってもらうことがベストですが、運動を行うことによって、腫れがひどくなったり痛みが強くなったりしてきたら、これはおかしいかもしれないと思ったほうがいいかかもです。

そういった場合は、回数を減らして様子を診るようにしています。

まとめ

中手骨頚部骨折の治療で僕が過去に経験した症例をもとに、注意したほうがいい点について解説してきました。やっぱり、失敗から学ぶことってかなり多いですよね。

でも、ケガをした患者さんが来た時に、毎回失敗ばかりしてるわけにはいかないというのが現実。

こういった他人の苦い経験から、たくさんのことを吸収し学んでいくことが、これから関わっていく患者さんのためになると思います。

柔道整復師のすごいところって、怪我をした直後から機能障害がなくなるまで、すべての期間患者さんに携わることができるところだと思っていまして。

その分、プレッシャーも多くかかりますが、治療が終わって喜んでいる患者さんの顔を見れると、今までやってきたことが報われるんですよね。

そのためには、常に勉強していく必要があると、毎日感じながら試行錯誤する日々です。これからも、みなさんと一緒に高め合っていければと思います。

参考書籍

上肢骨折の保存療法骨折・脱臼柔道整復学・実技編  改定第2版柔道整復学・理論編  改定第6版

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