吉澤 遼馬
3月31日
上腕骨近位部骨折とは
上腕骨近位部の骨折です。
★ 結節上骨折
・骨頭骨折
・解剖頚骨折
★ 結節下骨折
・外科頸骨折
・大結節単独骨折
・小結節単独骨折
・結節部貫通骨折
上記の骨折があります。大部分は外科頸骨折です。
上腕骨近位部骨折は、全骨折の4〜5%に発生すると言われています。(統計によっても違う)女性は男性に比べ2倍以上発生し、特に80代で最も発生頻度が高いです。
その中でも87%が、「立った高さからの転倒」によって受傷しているという事実です。
骨折している方の多くは、骨粗鬆症の進んだ高齢者で、特別大きな外力が加わったわけでなくても発生します。
交通事故などによって生じる若年者の上腕骨近位部骨折と、脆弱性骨折の1つである高齢者の上腕骨近位部骨折では、治療難易度もゴールも異なります。
若年者:人体で最大の関節可動域を持つ肩関節の可動域をはじめ機能的に受傷前の状態に復元することが目標
高齢者:痛み、特に夜間痛のない肩関節で自分のカラダのすべての部位に手が届くように治療することが目標
上記を念頭に、治療をしていく必要ありです。
見分けていくためのポイントは以下です。
・年齢
・外観
・可動域制限
・圧痛
・叩打痛
・画像検査
◆年齢◆
高齢者であればまず、上腕骨近位部骨折を疑います。
高齢者の上腕骨近位部骨折かと思ったら、肩関節前方脱臼 + 大結節骨折なんて症例も経験したことがあるので、高齢者=みたいな考えでいると危険です。
ちなみに、その症例は整復できなかったので、大きい病院へ紹介となりました。
◆外観◆
腫脹の有無、転位があるかなどをチェックします。
特に肩峰下の膨隆は、肩関節脱臼との鑑別にすごく重要です。
◆可動域制限◆
著名な可動域制限があると思いきや、全然なくて肩を動かしているなんて人もたまにいます。
そういった方は、1週間とかの時間を経過して来院される方が多い印象です。
要注意なのは、こういった少し時間がたって来院された方かもです。
変に、「骨折はないから大丈夫です」なんて言って、痛みが取れないから他の病院へ行ったら骨折と言われた、なんて状態が最悪です。
受傷機転と年齢、受傷からの日数、所見などすべての情報を加味して、評価する必要ありです。
◆圧痛・叩打痛◆
骨折の固有症状の限局性圧痛は、結構重要な判断材料です。
圧痛をとる部位は、
・鎖骨
・上腕骨
・肩甲骨
・肋骨
など。
上腕骨でも、大結節に強いのか外科頸部に強いのか、圧痛は細かくチェックすると、だいたいどのあたりで折れていそうか、予想が立てられます。
◆画像検査◆
レントゲンやエコーなどを使って、患部の状態をチェックし、外傷の有無、治療方針を決定していきます。
画像所見で、骨折があるからといって骨折しか疑わないと、合併する可能性のある神経麻痺(特に腋窩神経麻痺)や腱板断裂などに気づかない場合があるため注意が必要です。
患者さんのすべての所見を総合的に入手し、判断していく必要があります。
※ 骨折の形態・分類
転位がひどい場合は血行障害、骨頭壊死、偽関節、肩関節機能障害を合併する可能性があります。
Neerの分類よって、最適な治療が選択するのが一般的です。
★ニアの分類
Neerの分類では、骨頭、大結節、小結節、骨幹部の4つのセグメントに注目し、セグメント同士が1cm以上の離開または45°以上の回旋変形がある場合をdisplaced fracture(2-part、3-part、4-part骨折)としています。
骨折線があっても、これ以下の転位であれば「周囲の軟部組織が存在し骨血流も保たれている」との考えから、「minimally displaced fracture(1-part骨折)」とし、保存療法をしていきます。
この分類の最大の特徴は、骨折型と治療法選択との関係がわかりやすいことです。
現在は、2002年にNeer自身が従来の分類に4-part外反嵌入骨折を追加しているので、新しい改訂Neer分類を使用されています。
Neer分類の有用性塩野ら:603例中わずか8例(1.3%)がNeerの分類のいずれにも含まれない
Tamaiら:509例中わずか2%がNeerの分類のいずれにも含まれない
と報告しています。
治療法は、手術療法と保存療法があります。
上記を参考に治療方針を決定します。
治療成績を左右する因子
治療成績を左右する主な因子は以下のとおりです。
年齢
受傷時の合併症
治療中に生じる合併症
後療法
① 年齢
年齢は治療法の種類に関わらず、最も機能的予後に影響があります。
高齢者では、機能低下や骨片転位の程度と患者満足度は必ずしも相関しないとされています。
患者さんの生活スタイルを聞き、どんな治療をしていくかが大切。
② 受傷時の合併症
動脈損傷と神経損傷が重大な機能障害をもたらす原因となります。
特に、腋窩動脈損傷は早期に発見し、処置を加えないと上肢が広範な壊死に陥る可能性があるので、慎重に経過観察しましょう。
腕神経叢麻痺は、常にその可能性を念頭に置いて診察しないと見逃されやすいです。
多くの症例では一過性で時間とともに回復しますが、回復が見られない場合は神経に対する手術を考慮する必要があります。
③ 治療中に生じる合併症
観血的整復固定術に伴う早期合併症は非常に多い。特にロッキングスクリュープレート固定によるスクリューの関節内突出や術後の再転位などは数多く報告されている。
具体的には、近位スクリューの緩みや脱落などで、これらの合併症に対して、高齢者の観血的整復固定術の再手術は少ない。
なので近年は、人工骨頭やリバース型人工肩関節全置換術が行われることが多くなったようです。
高齢者の上腕骨近位部骨折の手術治療は、他の橈骨遠位端骨折や大腿骨近位部骨折の手術治療と比べると遥かに難易度が高そうです。
その理由として、上腕骨骨頭の皮質は薄く軟骨面もおおく、さらに肩関節の可動域も範囲は大きいので、受傷前の機能を回復するのは簡単ではないからです。
最近の調査では、保存療法と手術療法の治療成績には大きな有意差がなかったという報告が多くあるため、治療に関しては、術者がメリット・デメリットを十分に患者さんに説明し、患者さんにとって最善の選択を両者で決める必要があると思います。
④ 後療法
タイミングにあった対応が重要。
早すぎる → 偽関節、遷延治癒
遅すぎる → 拘縮
Dr.と十分に連携を取り、時期にあった後療法を開始していく必要ありです。
◆ 上腕骨外科頸内転型骨折の悪夢
僕が学生の頃、大きな転位のない上腕骨外科頸内転型骨折で、末梢片が中枢編に対してやや内転気味だったので、軸を合わせるために教科書どおりの徒手整復をおこないました。
結果、転位を強くしました。
この方はDr.の判断で保存療法で行うことになり、最終的に可動域制限は残存しましたが、日常生活に大きな支障もなく過ごせるようになっています。
この辺は、年齢や環境、Dr.の考え方に大きく影響されるなと感じています。
上記の症例、いくつも問題はあったと思いますが、よく考えなければいけない問題は、
① 教科書に載っている整復法は時代にあっていない。
② 経験の少ない柔道整復師がやるべきではない。
少し、解説したいと思います。
① 教科書に載っている整復法は時代にあっていない。
気づいている方もいるかもしれませんが、今の教科書に載っている整復法を書いてる先生方って、レントゲン透視下で整復できていた世代ではなかろうかと、、、
もしそうであれば、今の僕たちと、この技術で整復していた人たちでは、圧倒的に環境が違います。
骨折部をみながら合わせられるのと、見えない骨折部がどう挙動しているか想像しながら、合わせていかなければいけない、難易度がかなり違います。
教科書どおりの徒手整復を、思考停止でしてしまうと、今回のように、残念な結果になってしまう可能性があります。
② 経験の少ない柔道整復師がやるべきではない。
やはり、徒手整復の経験が少ない人は、徒手整復に挑戦すべきではないと個人的に思います。
まして、今回のような症例の場合は、頑張って整復をしなくても、問題はなかった可能性が高いです。
そういった判断は、はっきり言って経験した人でないとわからないかと。
いろんな準備ができていないのであれば、やるべきではないですね。
保存療法では以下の点に注意が必要です。
① 大結節には外旋筋が付着しているため、肩関節を内旋位で固定すると大結節骨片には転位する力が加わりやすくなる。
② 受傷後2週間ぐらいは、疼痛が強く特に夜間痛が著明なので、睡眠時の姿勢を十分に指導する
急性期は、疼痛のコントロールと骨片転位の防止を目的に治療を行なっていきます。
骨片がどんどん転位してしまう場合は手術療法を選択します。
◆疼痛管理の仕方
床面と方から上肢の間に枕などを入れて、肩関節の過伸展を防止、腹部に抱き枕などをもたせ内旋を防止します。
これはダメなやつ。
タオルで調節するといいです。
◆固定法三角巾とバストバンドによる固定
必要であれば腋窩に枕子を入れ、三角巾で提肘しその上からバストバンドで固定します。安定性が悪い場合は、綿包帯で、上肢を体幹にしっかり固定します。
以前は行われていたハンギングキャスト法は、過度の牽引が骨折部に加わるため偽関節や遷延治癒の可能性が高くなるとの報告も散見され、近年ではほとんど行われていないようです。僕もやったことないです。
★ ストッキネットベルポー固定
上腕骨頸部骨折や上腕骨骨幹部骨折に使われる固定の一つです。
用意するもの患者さんの体型に合わせたストッキネット
安全ピン4個
★ 方法 ★
①肩関節付近のストッキネットをに穴をあけ、洋服の袖を通すように腕をとおす。
②手関節付近のストッキネットに穴をあけ、手部がストッキネットから出るようにする。
③ 上腕部と手関節部のネットを折り返し、安全ピンで止める
頸部後方のストッキネットには綿やタオルを入れてフワフワにすると、首にネットが食い込まず快適です。
手根中央関節程度まで覆われている方が、手関節がブラブラしないので患者さんは快適です。
三角巾とバストバンドよりも固定性がよく、脇の下に枕やタオルを入れて骨折部の整復位を維持するためにも非常に有用な固定法とされています。
固定期間中から肩の可動域制限について思いを馳せなければいけないのです。
固定除去後の肩の後療法は、拘縮肩の考え方でOK
肩の痛み+可動域制限で考えることは、インピンジメント肩なのか拘縮肩なのかです。
拘縮肩の第1関門は、上腕骨の大結節が肩峰下を通過するところで、何も考えずに骨折部が安定するまで下垂位で固定してしまっていると、必ず通過できなくなります。
★早期運動療法
そこで、早期運動療法が推奨されています。
初期の炎症や痛みが軽減する頃から行うのがすすめられているため、Dr.と相談しながら、肩甲上腕関節の可動域維持を目的にstooping exerciseを行っていきます。
stooping exercise
Codmanによって提唱された、立位から肩の力を抜き前にかがむ(stoop)姿勢を取らせるexerciseです。
この姿勢を取らせることで、肩関節を構成軟部組織(筋、靱帯、関節包など)の柔軟性と伸長性の維持・回復、具体的にいうと、大結節が肩峰下を通過するだけの柔軟性を維持しておくことができます。
注意点は、普通に指導する、頑張って前後・左右に振るような振り子運動とは、違うという事です。
何も考えずに振り子体操をしてしまうと、肩甲胸郭関節も動いてしまうため、症例によっては骨折部が動いてしまい、偽関節や遷延治癒の原因にもなります。
なので、肩甲骨をしっかりと手で固定して、骨折部が動かないようにしたうえで、肩甲上腕関節の柔軟性を維持・改善していきます。
不安定性がある場合は、肩甲骨を固定するセラピスト、骨折部を把持するセラピスト に分かれたほうが良いです。
肩甲骨の固定方法:肩甲骨下角 + 肩甲棘、鎖骨 → 棘鎖角がずれない
骨折部の固定方法:骨折部が動いてないか触知。常に上腕が床面に対し垂直になるように保持する。
!注意点!骨折部が安定しないうちは、体幹の回旋や側屈での代償に注意しましょう。
◆ 骨折部が安定してきたら
体幹を患側に回旋させ、肩甲上腕関節の水平内転をすることで、後方組織の伸張性と滑走性の維持をしていきます。
また、健側方向に回旋することで、肩甲上腕関節を水平外転にし前方組織に対して、同じような効果を与えることも可能です。
ここは、非常に重要な点です。
骨癒合が得られた段階で、骨折部のアライメントを確認し、予後を予測しましょう。
上の画像からわかること
・中枢片は外転転位が残存している
→ 外転可動域が出にくい可能性が高い
・骨頭が求心位を取れていない
→ 普通にROM訓練をしたら、インピンジメントの原因になるかも
上記のようなことが、レントゲンの画像から推測可能です。
そしたら、やらなければいけないことは、見えてくるはずです。
・患者さんに、可動域が健側と比べて出にくい可能性があると説明
→ 聞いてなかったなどのトラブルを回避
・骨頭の求心位をとるにはどうしたらいいか
→ インナーマッスルの強化、肩甲骨の可動性など
よくわかんないで、後療法をおこないなかなか患者さんの状態が改善しないと、自分も不安ですし、何より患者さんが不安になってしまいます。
レントゲンから得られる情報を最大限に活用していきましょう。
上腕骨近位部骨折に限ったことではないですが、自分で考えることが本当に大事だなと思います。
教科書に記載されていることが正しいと思って行った行動が、間違っていたなんてことはよくあります。
臨床はいろんなケースがあり、そのとき時で臨機応変に対応しなければなりません。
なので、引き出しの多さがすごく大事だと感じます。
引き出しを増やすには、経験することが一番大切ですが、そんなチャンスがたくさん転がっているわけではないです。
なので、先輩方の経験をもとに、自分で考えていく必要があるのではないでしょうか。
もちろん、論文のようなきれいな情報も必要だと思いますが、多くの先生の一筋縄ではいかなかった、歪んだ情報(すごく失礼)も時には臨床のヒントにできると思います。
いろんな知識をしっかり自分のものにしていきましょう。
柔道整復学 理論編 改訂第6版柔道整復学 実技編 改訂第2版骨折・脱臼 改訂4版骨折の機能解剖学的運動療法整形外科リハビリテーション