吉澤 遼馬
2022年9月30日
最終更新: 3月24日
今回は突き指と言ったらマレットフィンガーでしょといったテンションで、 マ レ ッ ト フ ィ ン ガ ー をテーマに、お話していきたいと思います。
✔ この記事でわかること
★ 評価
★ 治療のための知識
★ 固定のアイデア
上記について、解説していきます。
★ 注意点です。★
当たり前のことですが、念の為確認しておきます。
このコンテンツの内容を真似したからといって、同じ治療効果が出るわけではないです。治療時の引き出しが一つ増えるくらいの感覚がベストだと思います。
このコンテンツの内容を活かすも殺すもあなた次第です。
一つ一つの疾患を想像し、知識・技術を高め、少しでも患者様に喜んでもらえるように、前進していきましょう。
それでは、はじめていきます。
DIP関節が屈曲位から伸展不能になってしまったものです。
原因は以下で、
末節骨に付着している終止腱部での腱断裂、もしくは末節骨基部での裂離骨折が起きることにより、筋の張力が末節骨に伝わらずDIP関節伸展が不可能になります。
どうやって発生するかというと、何かで切ってしまうという直達外力や、指先にボールが当たるなどの外力が加わることにより発生します。屈曲方向の力が加わって受傷する場合が、約50%といわれています。
補足ですが、評価の視野が広がりそうな、面白い研究があります。
✔ スタークによる年齢別の発生率と外力強度の関係を調べた研究
この研究から、35歳以上ではある程度の外力がないと発生しないのに対し、35歳以上になると些細な外力でも発生する可能性があることがわかります。
ということは、35歳以上のマレットフィンガーの場合は、他の指や同指の他の関節や骨の損傷(掌側板付着部の裂離骨折など)も念頭に入れる必要がありそうです。
こういうところを見逃さないのも、大切です。
評価は治療をする上で重要です。
✔ 視診
・DIP関節屈曲位
・DIP関節の自動伸展不可
・DIP関節の腫脹・発赤
上記があるか、しっかりと評価します。
マレットフィンガーは、特徴的な外観をするので、見ればわかります。
ただ、腱の部分断裂例になると、末節骨がお辞儀しない場合もありますので、圧痛などを丁寧に確認する必要がありそうです。
※ 注意点
爪の色にも注意が必要です。
というのも、患部の腫脹により爪母が圧迫されることにより、爪を伸ばす細胞がだめになる可能性があるからです。指先の外傷の場合は爪の状態も要チェックです。手指の外傷 = 爪の状態チェックです。
✔ 触診
圧痛:末節骨基部
DIP関節背側の陥凹
熱感
他の外傷がないか確認(特に基節骨掌側板付着部裂離骨折)
触診では、上記をチェックします。
腱性マレットの場合は、患部に陥凹を触れる場合もあります。
骨性マレットの場合は、骨折特有の限局性圧痛を確認します。
千木良先生の“掌側板付着部裂離骨折“ にも記載がありましたが、手指の裂離骨折は骨片が小さいため正確に圧痛を確認するのであれば、先が細いものを使用して確認するのがおすすめ。
腱や骨が常に中央で裂離しているとは、限らないということは頭に入れておくと、固定や整復の幅が広がるかもです。
✔ 画像評価
腱性マレットなのか骨性マレットなのかの評価に使います。
DIP関節自動伸展不可 = マレットフィンガー = DIP過伸展位で固定
この考え方は危険です。
腱性マレットと骨性マレットでは、治療の方針が違います。
そして、骨性マレットでも骨片の大きさで治療方針が違います。
※ 手指のレントゲンについて
外傷を診る際はきれいな正面像・側面像を撮影してもらうことが重要です。
手指正面:手を開いて床においた状態(第5指に行くにつれて回旋があるため考慮する)
手指側面:爪が半分くらい見えている
スタック分類でTypeⅠ、TypeⅡについては、十分な固定を継続できれば保存療法での治療は可能です。
TypeⅢの場合は、骨片の大きさや脱臼の具合などをしっかり評価し、それに基づいて整復・固定ができる知識や技術が必要になります。
治療方法は以下で、
★ 手術療法
★ 保存療法
この2つからの選択になります。
選択の基準は、
腱性マレット → 受傷から時間が経過している場合
骨性マレット → 骨片が大きく末節骨全体が掌側へ転移し整復位保持が困難な場合
上記の場合は、だいたい手術を選択されることが多く感じます。
どんなマレットフィンガーも、保存療法で治療できるだけのスキルがほしいところです。
それぞれについて解説していきます。
★ 手術療法
手術は石黒法が有名です。
少骨片を鋼線で背側から固定し、背側への転位を防いだ上で、DIP関節を伸展し大骨片を少骨片に合わせる方法です。
✔ 石黒法
✔ 石黒法失敗例
手術をしても、骨片がきちんとよっていないものに関しては予後が悪いです。
この症例の場合は、結局最後まで完全伸展はできませんでした。
レントゲンを見た段階で、患者さんに予後を説明できるようにしておかないと、希望をもたせるだけもたせて結局できないとなってしまいます。
★ 保存療法
Type別に、保存療法をするためキーポイントを解説します。
◆ Type Ⅰ・Ⅱのポイントは、固定位(過伸展位)の保持
・過伸展での固定、伸展位でもOKと言っているものもあり
・4〜6週、最大で8週程度
・基本どおり治療をおこなっても10°〜20°の伸展不全を残すことがある(腱タイプ)
まとめると上記です。
固定時の注意点として、固定材料は過伸展してても患部の過伸展が得られていないというのが結構多い印象があります。それには、ちょっとした工夫が必要で、ここに関しては後ほど解説します。
Type Ⅰ の場合は、固定期間が6週くらい必要で、固定期間中に少しでもDIP関節が屈曲してしまうと、経過がよくないことが多いです。かなり慎重に治療していく必要ありです。
TypeⅡの場合は、骨癒合の具合にもよりますが4週程度の固定期間が必要かと思います。
どちらのTypeにせよ、固定期間中にDIP関節が屈曲しないように注意しましょう。
特に固定を外すときは、患者さんに押さえてもらうなどの協力が不可欠です。
◆ Type Ⅲの場合は、骨片をちゃんとよせること。
・遠位骨片の掌側転位をしっかりと整復し整復位を保持できるか
・固定肢位は症例によってで、屈曲伸展0°〜屈曲位の間で選択
・4〜6週の固定(仮骨と相談)
骨片が寄らないことによって、最終的に伸展ができなくなります。
✔ 具体例にて解説します。
Type Ⅲのマレットフィンガーです。
固定が骨片に対してしっかりとフィットしないと、余分なスペースに骨片が移動してきてしまいます。
そうすると、こんな感じで解剖学的な整復が得られず、機能障害が残ってしまいます。
この症例だと、おそらくDIP関節の完全伸展は不可能かもです。
※ 注意点:患者さんへの説明
保存療法の注意点は、患者さんの同意を必ず得るということ。
手術療法と保存療法のメリット・デメリットを解説した上で、患者さん自身に治療を選んでもらうのがベストだと思います。
保存療法の場合、固定初期は色々と気をつけてもらうこともあり、患者さんの日常生活にストレスが加わることになります。患者さん自身がやらされているマインドだと、治療がうまくいかないケースが多く、いい治療成績が獲得できないです。
そのためにはしっかりと説明し、患者さん自身が自主的に保存療法と向き合ってくれる環境づくりも大切かもです。
固定のアイデアを Type 別に解説していきます。
★ Type Ⅰ・Ⅱのアイデア ★
保存療法で治療していて多いのが、過伸展位で固定しても、いつの間にかDIP関節が屈曲してしまっているという状況です。
これでは、固定除去後に結局、DIP関節が伸展できないということになってしまうんですよね。悩ましいです。
✔ MP・PIP関節を90°屈曲位にする
こうすることによって、DIP関節に屈筋の張力が伝わらくなり、屈曲の防止をしながら固定が可能になります。
実際には、こんな感じになります。
この上から、伸縮包帯なり綿包帯なりを巻いて完了です。
ただこの固定を、長期間継続してしまうと手指の拘縮が起こり、マレットフィンガーでの問題ではなく、固定をしていたことでの問題が起きてしまいます。
そういったことを起こさないためには、週に2〜3回程度は固定を外し、PIP関節とMP関節のみ他動運動でROMを維持しておく必要があります。
くれぐれも、DIP関節が屈曲してこないように細心の注意をしながらおこなってください。
★ Type Ⅲのアイデア ★
先程も解説したとおり、固定肢位がよくても、固定の方法に問題があることによって、骨片が転移してしまう可能性ありです。
✔ どういった力を加えておきたいか
結論は、上記です。
橈骨遠位端骨折の記事でも散々お伝えしていることですが、①どこに ②どういった力 をかけておけば、骨片が整復位でとどまっていてくれるか、これを考えることが、骨折の治療では重要だといつも感じます。
画像のように、末節骨自体を確実に背側へ押す力を加えられる固定にしなければ、意味がないということ。
★ 手指の背側固定 × 褥瘡 ★
千木良先生の記事でも仰っていましたが、手指の背側固定と褥瘡はとても仲のいいお友達です。 アルフェンスに関しては大親友です。
なので、固定作成するときは注意が必要です。
僕が気をつけている、アルフェンスを背側から当てるときのポイントです。
✔ アルフェンスのモデリングをするときのポイント
ここのスペース重要です。これを作るか作らないかで、褥瘡の発生率がかなり変わります。
基本的にアルフェンスを背側から当てる固定はしたくないのですが、止む終えない場合もあるじゃないですか、、、
そんなときは、こんな感じで対応します。
今回は、マレットフィンガーをテーマに情報をシェアしてみました。
指のこんな小さい場所であっても、たくさん考えさせられる事があり、非常に奥深く感じます。
橈骨は橈骨でたくさん考えることがあり、指は指でたくさん考えることがある。外傷の勉強は尽きないですね。
特に、治療法に関しては、少しマニアックで細かい知識が、ちょっとしたことに役に立ったり、少しでも患者さんの生活を楽にできたりします。
骨をくっつける、組織をしっかり治癒させるのはもちろん大事なことですが、患者さんの負担が少ないこともすごく重要なことだと思います。
この記事の内容が、皆様の臨床のヒントになれば幸いです。
今回は、これくらいにします。
最後までご覧頂きありがとうございました。
参考書籍
骨折・脱臼 改定第4版
上肢骨折の保存療法
柔道整復学・理論編 改定第6版