吉澤 遼馬
2022年12月1日
アスリートの股関節痛に多いとされているFAI(Femoroacetabular Impingement)について今回解説していきます。
主としてのテーマはFAIですが、FAI以外での鼠径部痛(グローインペインや股関節前面痛など)にも通じる考え方や運動療法となります。
そのため、FAI以外でも臨床に役立てていただければ幸いです。
それではよろしくお願いいたします。
目次
FAIとは?
FAIの臨床症状
FAIの理学所見
FAIに対する運動療法
①股関節可動域低下
股関節屈曲セルフROM
股関節後方組織ストレッチ
②股関節安定化低下
小殿筋エクササイズ
外閉鎖筋エクササイズ
内閉鎖筋エクササイズ
③骨盤帯可動性低下
骨盤の分割
④骨盤帯安定性低下
赤ちゃん立ち上がりエクササイズ
体幹筋+中殿筋トレーニング①
体幹筋+中殿筋トレーニング②
体幹筋+中殿筋トレーニング③
【参考文献】
まずFAIの定義として
大腿骨及び寛骨の骨形態異常により股関節動作時に衝突が生じる病態
【参考文献】
1)福島健介:FAI(femoroacetabular impingement)の診断と疫学、Monthly Book Orthopaedicsスポーツ股関節痛―診断と治療― 31号6:2018
とされており、この病態があることにより将来的に股関節唇損傷や軟骨損傷を生じ、将来的に変形性股関節症を生じさせるとも言われています。
【参考文献】
2)雪澤洋平:FAIに対する股関節鏡視下手術、関節外科 Vol.36 4月増刊号;104−112:2017
多くは上図のイラストのように股関節前面で寛骨臼と骨頭が衝突することで痛みやクリック音などの症状を引き起こします。
また、FAIのtypeとしては大きく3つあります。
CAM type
PINCER type
Mix type(CAM typeとPINCER typeの混合)
【参考文献】
2)雪澤洋平:FAIに対する股関節鏡視下手術、関節外科 Vol.36 4月増刊号;104−112:2017
FAIの原因として上記のような骨の形態異常が認められます。
そのため、レントゲンでこのような所見がある場合は、FAIの可能性を考慮に入れて評価・介入していく必要があります。
【参考文献】
2)雪澤洋平:FAIに対する股関節鏡視下手術、関節外科 Vol.36 4月増刊号;104−112:2017【参考文献】
2)雪澤洋平:FAIに対する股関節鏡視下手術、関節外科 Vol.36 4月増刊号;104−112:2017
FAIの臨床症状としては多彩ですが、その中でも
股関節周りの疼痛・引っかかり
クリック音
可動域制限
はよく見られる症状となります。
また、患者さんの痛みの部位の訴え方として特徴的なのが「Cサイン」「股関節部・腸腰筋領域」を示すのも特徴的な所見となります。
【参考文献】
1)福島健介:FAI(femoroacetabular impingement)の診断と疫学、Monthly Book Orthopaedicsスポーツ股関節痛―診断と治療― 31号6:2018
このような訴え方をする場合はFAIも可能性の1つとして念頭に置きましょう。
FAIは理学評価で比較的判別しやすい病態でもあると言われています。
診断としては日本股関節学会より提唱された診断指針があり、それを元に診断をします。
しかし、実際の臨床で判断が求められる場合があると思います。
その時の簡便なスクリーニングとして有用な理学評価があります。
【参考文献】
3)小林直実:FAIの診断 ~理学所見と画像診断~、関節外科 Vol.36 No.2;51−57:2017
これら理学評価はあくまでもスクリーニング的な判断となりますが、それでも下記の3つの所見が陽性であればかなり高い割合でFAIの可能性が高いと考えられます。
それではFAIに対する運動療法について紹介していきたいと思います。
FAIに対する問題となりうる機能面として青山らは、
①股関節可動域低下
②股関節安定化低下
③骨盤帯可動性低下
④骨盤帯安定性低下
【参考文献】
4)青山倫久:FAI(femoroacetabular impingement)に対する保存療法、 Orthopaedics 31/6:2018
これら4点の機能低下を挙げています。
そのため、FAIの予防や症状改善において4点の機能を高めることが必要と考えられます。
股関節は肩関節と同様に球関節であり、非常に自由度の高い関節となります。
その自由度の高い関節運動の中でも、FAI改善にとって特に必要な柔軟性が「股関節後方組織」の柔軟性となります。
Diamondらの2015年の論文では、
大腿骨頭後方組織の制限は屈曲の際に前方負荷が増大。それにより、FAIを助長する可能性がある。
【参考文献】
5)Laura E Diamond:Physical impairments and activity limitations in people with femoroacetabular impingement: a systematic review、Br J Sports Med Feb;49(4);230-42:2015
と報告しています。
そのため、股関節可動性の中でも特に後方組織の柔軟性を高めることが重要と考えられます。
股関節後方組織をストレッチする方法です。
色々な方法がありますが、この方法が一番柔軟性を出しやすい印象があります。
ただし、股関節が内転・内旋方向に入りやすいため、痛みには注意してください。
痛みが出る場合は内旋をなるべく少なくし、それでも痛い場合はこの方法は止めておきましょう。
また、手で把持できる場所があれば次の方法がより効果的になります。
股関節を動かすには、まず関節周囲の深層筋収縮により骨頭を安定化させ、次に表層筋などの大きな筋が収縮することにより関節(骨)を動かします。
これが、適切な股関節の運動です。(どの関節でも基本的には同じ流れ)
深層筋が適切に働かなければ、骨頭が不安定なまま関節を動かすことになり、インピンジメントや骨頭偏位が起こりやすくなります。
この点についてCooperらは、
FAI患者関節求心性が損なわれ関節不安定症を高率で生じ、関節不安定性が強くなればなるほどFAIも悪化のサイクルをたどる。
と報告しています。
そのため、股関節深層筋の賦活化により関節安定性を高めることが必要となります。
また、股関節の安定性を高める深層筋について、
これらの筋機能を高めることが股関節安定性を高めることに繋がると考えられます。
ここでは、股関節深層筋である「小殿筋」「外閉鎖筋」「内閉鎖筋」それぞれのエクササイズをご紹介します。
骨盤帯可動性もFAI予防・改善のためには必要な要素となります。
Lamontagneらによると、
【参考文献】
6)Mario Lamontagne:The effect of cam FAI on hip and pelvic motion during maximum squat、Clin Orthop Relat Res . Mar 467(3);2009:645-50
このように骨盤の可動性の中でも特に矢状面上の可動性が重要であると報告されています。
FAIに関しては深いスクワットや深屈曲動作では”骨盤後傾”の適切な可動性が必要と考えられます。
腰痛予防などではスクワットなどでも骨盤後傾が良くないとされることが多いのですが、FAIに関しては適切な骨盤後傾の方が重要なのは、読んでいて興味深かったです。
また、後傾だけでなく骨盤前傾の可動性ももちろん重要となります。
骨盤帯の可動性に関しては、骨盤に付着している筋群の伸張性が大切なのは言うまでもありません。
その点に関しては、各筋群のストレッチなどでの伸張性改善が必要となります。
ここでは、骨盤帯の動かし方のバリエーションを増やすという観点で”骨盤の分割”エクササイズをご紹介したいと思います。
骨盤分割の動きはスポーツにおいて非常に重要な動かし方とされています。
特にオーバーヘッドスポーツなどの投球動作や、バスケやハンドボールなどで多く見られる切り返し動作においても非常に重要な動きとなります。
骨盤帯安定性向上のために深部体幹筋の機能向上エクササイズがFAIも症状を軽減させる研究結果は数多く存在します。
確かに調べていると、今回の①〜④の中では、この骨盤帯安定性向上、つまりは深部体幹筋の賦活がFAIの改善にポジティブな結果が出ている研究が多かった印象がありました。
その中の1つとしてYazbekらの論文では、
【参考文献】
7)Yazbek P et al.: Nonsurgical treatment of acetabular labrum tears: A case series. J Orthop Sports Phys Ther. 41;346-353:2011
エクササイズの内容としては、Hip up(お尻上げ)やBird dog、フロントプランク、中殿筋エクササイズ(側臥位での股関節外転+伸展)といったシンプルなエクササイズでした。
骨盤帯安定性低下がFAIを助長するメカニズムとしては、
骨盤帯不安定性によりCKCでの運動時、骨頭の求心位が保持しにくくなることで股関節不安定性に繋がってしまうためと考えられています。
特に深部体幹筋と中殿筋(殿筋群)の収縮の連動が重要であるとされています。
1つ目にご紹介するのは”赤ちゃん体操”などの名称で知られるDNS(動的神経筋安定化)で用いられるエクササイズになります。
単純そうで簡単に見えますが、「腹圧(体幹深層筋)」と「殿筋群(開排側)」がしっかりと機能しなければ立ち上がることができません。
(筋肉モリモリのトレーニーが全然できなかったりします。逆にヒョロヒョロでも深層筋がしっかりしている人であれば簡単にできたりもします。)
そのため、その2点の機能の評価にもなるし、トレーニングにもなります。
注意点としては、膝を立ててる下肢側は使ってはいけないという点と、立ててる膝がknee inしないようにすることです。
こちらのトレーニングも体幹の深層筋がしっかりと機能し、体幹stabilityと中殿筋の出力のコントロールが上手くできていないと適切に動作をすることができません。
目標としては、この動作が滑らかに行えると理想的です。
こちらは王道のトレーニングとなります。
基本的には”下側の体幹筋群のstabilityと中殿筋(半CKC)”と”上側の中殿筋(OKC)”の機能改善となります。
最後は立位での体幹筋と中殿筋(殿筋群)の促通エクササイズとなります。
チューブを利用し軸足に内旋方向の抵抗がかかるようにし、より殿筋群を強く促通させます。
以上が今回の内容となります。
FAIは構造的な問題の場合もあり、手術しなければ改善しないのではないか?と考えるセラピストもいると思います。
しかし、論文的にも経験的にも適切な運動療法により症状が改善したり、軽減したりする可能性は大いにあります。
そのため、適切な評価と運動処方ができるよう、今回の内容は最低限でも頭に入れ、対応してみてください!
今回の内容が少しでも臨床の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
1)福島健介:FAI(femoroacetabular impingement)の診断と疫学、Monthly Book Orthopaedicsスポーツ股関節痛―診断と治療― 31号6:2018
2)雪澤洋平:FAIに対する股関節鏡視下手術、関節外科 Vol.36 4月増刊号;104−112:2017
3)小林直実:FAIの診断 ~理学所見と画像診断~、関節外科 Vol.36 No.2;51−57:2017
4)青山倫久:FAI(femoroacetabular impingement)に対する保存療法、 Orthopaedics 31/6:2018
5)Laura E Diamond:Physical impairments and activity limitations in people with femoroacetabular impingement: a systematic review、Br J Sports Med Feb;49(4);230-42:2015
6)Mario Lamontagne:The effect of cam FAI on hip and pelvic motion during maximum squat、Clin Orthop Relat Res . Mar 467(3);2009:645-50
7)Yazbek P et al.: Nonsurgical treatment of acetabular labrum tears: A case series. J Orthop Sports Phys Ther. 41;346-353:2011