吉澤 遼馬

2022年7月31日

どうする?半月板損傷

最終更新: 3月24日

半月板損傷の難しいところ

半月板は非常に評価・鑑別が難しい、、、

これに尽きると思います。

接骨院やトレーナー現場でも受傷機転がないのに
 
”何だか膝が痛い、、”と言ってくる患者さんは意外と多いはずです。

そもそも半月板損傷は症状を伴いものが多いが多い疾患です。

膝の痛みを抱えていないバスケットボール選手の膝をMRI検査をしたところ50〜60%に半月板損傷が見つかるとも言われています。

仮に画像で見えても患者さんの主訴と関係があるのかは吟味が必要です。

Pappas GP, Vogelsong MA, Staroswiecki E, Gold GE, Safran MR. Magnetic Resonance Imaging of Asymptomatic Knees in Collegiate Basketball Players: The Effect of One Season of Play. Clin J Sport Med. 2016 Nov;26(6):483-489. doi: 10.1097/JSM.0000000000000283. PMID: 27347867; PMCID: PMC5083196.


 

症状

典型的症状は荷重や捻り動作に伴った関節の痛み、関節裂隙の圧痛、giving wayと呼ばれる膝崩れ、クリック音、スナップ音、嵌頓(locking)などがあります。

腫脹は受傷後すぐに出現しないことが多いのが評価鑑別を難しくさせるポイントです。

主張が出現しても24時間〜72時間かけながら腫脹するケースもあります。

半月板の損傷部位には傷口に水が溜まるmeniscus cystと言った嚢胞が形成される場合があり、まれに触知できる場合もあります。

損傷後や修復後に発症しやすく、損傷だと縦断裂の場合が起こりやすいとされています。

手術の場合、All-inside Techniqueという縫合方法を使うと起きやすく、発症は修復全体の13.7%(14/102)、有症化したのは14.3%(2/14)のみでした。

まれに感染症を起こしたり、神経障害のリスクファクターにもなり、大きいもので8㎝×6.5㎝×4㎝にまで巨大化した症例もあります。

エコーなどでも可視化できるので所持している先生はぜひ観察してみるといいかと思います。

Nishino K, Hashimoto Y, Nishida Y, Terai S, Takahashi S, Yamasaki S, Nakamura H. Incidence and Risk Factors for Meniscal Cyst After Meniscal Repair. Arthroscopy. 2019 Apr;35(4):1222-1229. doi: 10.1016/j.arthro.2018.11.039. Epub 2019 Mar 11. PMID: 30871908.
半月板嚢腫に対し関節鏡視下嚢腫交通術を行った1例 末永 英慈, 北村 貴弘, 仙波 英之, 松田 匡弘, 志田原 哲

可動域制限は屈曲、伸展ともに出現しますが、中央右の図にあるバケツ柄タイプは伸展制限が出やすい傾向です。

鑑別テストでは
 
Mcmurray test
 
Apleys compression/Distraction test
 
Thessaly test
 
Ege's test
 
などがあります。

マックマレーテストを深堀り

Validity of the McMurray's Test and Modified Versions of the Test: A Systematic Literature Review
 
Wayne Hing, PhD, MSc, ADP, Dip MT, Dip Phys, MNZCP,a Steve White, MhSc, DipPh, DipMT, DipPhys,b Duncan Reid, MhSc, PGDhSc, Dip MT, Dip Phys, BSc,c and Rob Marshall, BSc, PGDhScd

私たちが学校で勉強したマックマレーテストですが実はさまざまなバリエーションが存在します。

もともとマックマレー氏によって考案されたテストですが、最初にOriginal McMurray Test とその後に発表されたOriginal McMurray Test Ⅱ の2種類があります。

Original McMurray Test
 
・半月板後節を検査
 
・患者は仰臥位で膝を最大屈曲
 
・脛骨内旋によって外側半月を、脛骨外旋によって内側半月をそれぞれテストする
 
・膝の屈曲角度を変えながら数回繰り返す
 

 
陽性:クリックなどの
 
(実際聴こえることもあるが、触知するもの)
Original McMurray Test Ⅱ
 
・患者は仰臥位で膝を最大屈曲
 
・脛骨内旋しながら膝を伸展させることによって外側半月を、脛骨外旋しながら膝を伸展することで内側半月をそれぞれテストする。
 

 
陽性:痛みを伴うクリックなどの異常音

この二つの時点で”音”のみなのか、”痛みを伴う”のかの差があります。

Modified McMurry Test に2種類の方法があります。

Modified McMurry Test(+内・外反)
 
・別名を”Medial-Lateral Grind Test”
 
・関節裂隙を指で触知しながら、45度に屈曲しながら外反の、伸展しながら内反のストレスをかける(膝が円を描くように動かす)
 

 
陽性:関節裂隙に感じられるざらざらした感じを触知する
Modified McMurry Test(軸圧)
 
”Axially Loaded Pivot Shift Test"
 
・膝を伸展した状態から外反ストレスと脛骨の最大内旋をさせる
 
軸圧をかけながら膝を30〜45°に屈曲させる
 
軸圧をかけながら膝を完全伸展させる
 

 
陽性:関節裂隙の痛み、または触知可能なクリック音

他のテストもご紹介

 ・Apley's Compression/Distraction Test

Comparison of Accuracy in Expert Clinical Examination versus Magnetic Resonance Imaging and Arthroscopic Exam in Diagnosis of Meniscal TearSeyed Ali Hashemi, 1 Mohammad Reza Ranjbar, 1 Mohammad Tahami, 1 Reza Shahriarirad,corresponding author 2 , 3 and Amirhossein Erfani 2 , 3
Apley's Compression/Distraction Test
 
・患者は腹臥位リラックス
 
・検者は患者の膝を90°屈曲させて、自分の大腿で患者の大腿を固定する
 
・compression ver. :下腿に軸圧をかけて脛骨を内旋する
 
・distraction ver.:下腿を持ち上げて、脛骨を内旋させる
 

 
陽性:compression で痛みがあり、distractionで痛みが薄れるもしくは痛みの消失があれば陽性
 

 
臨床的解釈:半月板損傷
 
両方で痛かったり、distractionで痛みを訴えたら他の損傷を疑う。
 

 
感度:50% 特異度:77.78%

 

・Ege's Test

Akseki D, Ozcan O, Boya H, Pinar H. A new weight-bearing meniscal test and a comparison with McMurray's test and joint line tenderness. Arthroscopy. 2004 Nov;20(9):951-8. doi: 10.1016/j.arthro.2004.08.020. PMID: 15525928.

そのほかに修正版McMurray にはEge's Testなるものがあります。

このテストは”どうせ軸圧かけるなら、荷重で同じことやればええやん。”

という風味がぷんぷんするテストです。

Ege's Test
 
・患者は足を30〜40㎝程度離して、膝を伸ばして立つ
 
・脚を最大外旋しながらゆっくりスクワットをする
 
→この場合内側半月を検査している。
 
・最大内旋でも同じことを繰り返す。
 

 
陽性:痛みもしくはクリック
 
感度:66.18% 特異度:87.80%

確定力は優秀なテストです。

 

・Thessaly Test

Karachalios T, Hantes M, Zibis AH, Zachos V, Karantanas AH, Malizos KN. Diagnostic accuracy of a new clinical test (the Thessaly test) for early detection of meniscal tears. J Bone Joint Surg Am. 2005 May;87(5):955-62. doi: 10.2106/JBJS.D.02338. PMID: 15866956.

テサリーテストも荷重して行うテストです。

Thessaly Test
 
・患者は片足で立ち、膝を5°に曲げる
 
・検者は患者の前に立ち、手を持ってバランスを取りやすくさせる。
 
・屈曲角度を保ちながら3回身体を捻るように膝を内外旋する
 
・20°でもこれを繰り返す
 

 
陽性:関節裂隙の不快感、ひっかり感(catching)、嵌頓(locking)


 

・まとめると

鑑別テストで言えることは、テストが複雑でいまいち統一されていないため検者間でテスト結果にばらつきが出やすいのが大きな特徴です。

総じて感度よりも特異度の方が高く、内側半月にはより敏感に反応するようです。

半月板以外の損傷があった場合テストの正確性は下がることがあるので単独でテストを使うというよりは問診、視診、触診をしながら様々なテストを複数行った中で総合的に判断した方が良さそうです。

テストの陽性基準としましては”痛み+クリック”を陽性と考慮した方が診断的価値が上がり、修正版(modified)の方が優秀だが、難易度も上がるためしっかりとした練習が必要のようです。

Validity of the McMurray's Test and Modified Versions of the Test: A Systematic Literature Review
 
Wayne Hing, PhD, MSc, ADP, Dip MT, Dip Phys, MNZCP,a Steve White, MhSc, DipPh, DipMT, DipPhys,b Duncan Reid, MhSc, PGDhSc, Dip MT, Dip Phys, BSc,c and Rob Marshall,

半月板のシステマティックレビュー

半月板のエビデンスはまだまだ研究の少ない分野でありテスト法にも検者でばらつきがありますがまとめますと、、、

マックマレーテスト:感度:61% 特異度:84%
 
関節裂隙への圧痛:感度:83% 特異度:83%
 
テッサリーテスト:感度:75% 特異度:87%

確定にはテッサリーテストが使えそうですが、膝が20°まで曲げられない場合はどうすればいいのか?という問題があります。笑

また、半月板損傷のある患者さんが膝に荷重を掛けれられるか問題もあるので、テッサリーテストを現場で第一選択するかどうかは疑問が残るところです。

テッサリーテストは2009年ほどに発表された当初は感度97.7% 特異度90.3%という優秀なテストとして崇め奉られていましたが、2015年の論文では感度66%、特異度39%と一気に半月板テストの王座から引き落とされています。

半月板テスト暫定王者論文
 

 
Harrison BK, Abell BE, Gibson TW. The Thessaly test for detection of meniscal tears: validation of a new physical examination technique for primary care medicine. Clin J Sport Med. 2009 Jan;19(1):9-12. doi: 10.1097/JSM.0b013e31818f1689. PMID: 19124977.
王座墜落の論文
 

 
Blyth M, Anthony I, Francq B, Brooksbank K, Downie P, Powell A, Jones B, MacLean A, McConnachie A, Norrie J. Diagnostic accuracy of the Thessaly test, standardised clinical history and other clinical examination tests (Apley's, McMurray's and joint line tenderness) for meniscal tears in comparison with magnetic resonance imaging diagnosis. Health Technol Assess. 2015 Aug;19(62):1-62. doi: 10.3310/hta19620. PMID: 26243431; PMCID: PMC4780912.


 

確定するには?

Lowery DJ, Farley TD, Wing DW, Sterett WI, Steadman JR. A clinical composite score accurately detects meniscal pathology. Arthroscopy. 2006 Nov;22(11):1174-9. doi: 10.1016/j.arthro.2006.06.014. PMID: 17084293.

こんな論文があります。

この研究では半月板損傷を診断するために5つの項目をもとに半月板損傷の存在をどの程度効果的に鑑別できたかを評価をしました。

前十字靭帯損傷または変形性関節症の存在下で実施されたテストなので、従来のスペシャルテストの問題点であった他の疾患があった場合の陽性への懸念を払拭することができる内容になっております。

行われた5つの項目は、
 
1:ひっかり感
 
2:過伸展の痛み
 
3:最大屈曲の痛み
 
4:McMurrayで痛みもしくはクリック音
 
5:関節裂隙の圧痛

このうち3つ以上の項目が陽性であった場合、特異度が90%以上になるといわれています。

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