吉澤 遼馬

2021年12月31日

~半膜様筋のイロハ~

最終更新: 2023年2月11日

どうも!膝オタクの吉澤@Knee_geekです!
 

以前こんなツイートを...

半膜様筋が好きです。笑

毎年国内外の解剖研修に行っているのですが

タイへ行った時に、半膜様筋の〝停止腱〟の数に感激しました。

文献、書籍によっては停止腱の数に差はありますが

柔整の教科書で習う

〝脛骨内側面後面〟以外にも沢山の付着部を持つのは間違いありません。

今回は、多くの文献を読み込み

半膜様筋について、まとめてみました!!!

はっきり言って、相当マニアックですが

今回の記事は、必ず臨床に活きます!!!

目次

  1. 1.半膜様筋の解剖研究の歴史について

  2. 2.半膜様筋の機能について

  3. 3.膝窩部痛の為の半膜様筋への介入

それでは皆さん

半膜様筋の旅へ...

行ってみましょう!!!

1.半膜様筋の解剖研究の歴史について

半膜様筋の解剖学的形態については多くの報告が存在し、研究によって付着部の種類や線維の数が違って報告されています。

更に、半膜様筋は人体に存在する筋の中でも有数の複雑さを誇っています。 これらの知見をまずはザーッとまとめて行こうかなと思います。

半膜腰筋の初めての解剖学について詳細な研究は1948年にCaveとPorteousによって行われました。彼らは斜膝窩靱帯を含む 5 つの線維束があったことを言及しました[1]。これが現在スタンダードとされている半膜様筋の付着部だと思います。

次は、1961 年に Kaplan は、半膜様筋停止部の複雑な性質が、内側顆と膝関節の関節線の後方半分を通過するときに、いくつかの部分に分かれることを示しました[2]。

※ちなみに余談ですが、このKaplan先生は腸脛靭帯にある二つの「Kaplan fiber」について言及した人でもあります^^

1976 年に Hughstonらは半膜様筋腱の tibial arm(脛骨に付着する線維のこと)には膝窩筋上に広がる線維性被覆を含むいくつかの枝がある。と報告しました[3]。1979 年 Warrenと Marshalはsemimembranosus muscle tendon unit(SMTU)に2つの主要な付着部と腱鞘があると説明しました[4]。

1989年にYaoとJoong[5]は
 
①半膜様筋腱の遠位拡張が中央腱
 
②内側半月後角への線維
 
③内側側副靱帯 の深層へ停止する線維
 
④膝窩筋上の遠位線維性拡張
 
⑤斜膝窩靱帯への付着
 
上記の5つがあると述べました

ここから少しマニアックですが...

1997 年にKimらはSMTUを5つのセグメント(断面)に分割し「被膜、Direct harm、Anterior arm、Inferior branches、斜膝窩靭帯、及び 16/37(43.2%) の膝で6番目の腱である外側半月への分枝が報告されました[6]。

この外側半月への付着部に関しては他の研究でもおよそ3~40%ぐらいで、残りの60%程度の人では 膝窩筋が付着していると報告されています。

これらの外側半月への付着は膝関節屈曲運動時の外側半月の後方への移動に寄与し、半膜様筋は内側半月にも付着しますが、こちらも内側半月を後方に引く作用を持っており、膝関節屈曲運動に寄与しています!!!

膝関節のロッキングに関係してきそうですね...!?
 
※後述してます

1999年にLoredo は停止部には 5つのアームがあり、1 つは一連の腱のスリップからなる主なアタッチメントであると結論付けました[7]。

2003年に BeltranとMatityahuは Kim ら[6]とまったく同じようにSMTUの通常の構造を説明しました[8]。

2004年Simsと Jacobson は SMTU の 5 つの腱を含む膝のPostero medial corner(膝関節後方内側支持機構)を...
 
✔︎pars reflexa
 
✔︎内側側副靱帯に停止する腱
 
✔︎脛骨内側顆に停止する腱
 
✔︎斜膝窩靭帯への停止
 
✔︎POL(MCL後斜走線維)への停止
 
✔︎the popliteus aponeurosis expansion
 
と説明しました[9]

2005年にKoularisとConnel は内側脛骨顆への5つの腱を
 
①Direct arm
 
②Anterior arm
 
③Inferior arm
 
④POL(MCL後斜走線維)への停止部
 
⑤斜膝窩靱帯(OPL)への停止
 
人口の半分未満は外側半月に停止すると説明しました [10]

2006 年にWymengaらはdirect arm、posterior extension、capsular extension,、tibial posterior extension、inferior extension、半膜様筋腱鞘の 5 つの停止部がある新鮮な凍結死体組織の写真を介して SMTU を描写しました[11]。

最後に 2010 年にTurmanらは LaParade ら[12]によって発行された以前の論文を参照し、そしてSMTUの形態には 8つの停止部があると述べた[13]

LaParade らは Direct arm、主腱の遠位にある半膜様筋の付着、内側半月板の冠状靱帯への付着、斜 膝窩靭帯への停止部、近位後方関節包への停止、 遠位脛骨拡張、Anterior arm、POLへの付着の8つの停止部があると説明した[12]。

こんなに停止腱、あるのかよwって感じですよね。

また、驚くべきことに半膜様筋には両側欠陥例があります[14]。この場合、膝関節機能はその様に保たれているのかとても気になります。

もし、機能的な障害が少ないのであれば、現在言われている(後で説明する)半膜様筋の機能はさして重要ではない可能性があります。

これまでの報告をまとめると、停止部の最小数は1948年に報告された5つの付着部であり、最大 数はLaParadeらによって報告された8つの付着部になります。これまでの研究でも多くの意見が分かれ、多くの付着部が報告されてきたことを十分に理解してい ただけたことだと思います。

次は、半膜様筋の機能について書いていきます!!!

2.半膜様筋の機能について

半膜様筋は、膝関節後内側の静的支持機構に多く付着し、自身が緊張することにより、これらの組織の緊張を保つ作用を持っていると考えられています。

半膜様筋は屈曲位で弛緩するため膝関節屈曲位では静的支持機構も弛緩しています。そのため、膝関節屈曲位では後内側部分は不安定になり、相的支持機構からの安定性提供を多く受けることになります。

これが種々のメカニカルストレスにつながり侵害受容性疼痛を発生させる可能性はあります。

また、半膜様筋は腓腹筋とも密接な関係にあり、半膜様筋は腓腹筋の浅層を走行するため腓腹筋が緊張する膝関節伸展位で深層から腓腹筋によって圧迫を受けます。これらの圧を緩衝するために両者間には腓腹筋半膜様筋滑液包と呼ばれる組織が存在します。

これが、ベーカー嚢胞で有名な滑液包です。

普段の筋緊張だと何もありませんが、どちらかの筋が緊張することで圧力が増し、疼痛が発生する原因になる可能性はあります!!!

また、どの様な意義があるかは不明ですが腓腹筋と半膜様筋の間には線維性の連絡があります。

両者は切っても切れない関係にあるようですね!!!

また、解剖学の項でも紹介しましたが半膜様筋は内側半月や後方関節方にも付着しているため、これらは膝関節屈曲時に内側半月や後方関節包の挟み込みを防止し円滑な屈曲運動を行えるようにしています[15]。

機能解剖まで理解できた所で、実際の臨床応用についてお話して行きます。

3.膝窩部痛の為の半膜様筋への介入

ここからは実際に、前述した機能解剖を活かした介入のご紹介。

今回は、臨床で頻出する...〝深屈曲時の膝窩部痛〟

こちらにフォーカスしてお話していきます。

膝関節深屈曲時は、前述した半膜様筋や膝窩筋が半月を後方へ引くことで、半月のインピンジメントを回避しています。
 

前述した通り、半膜様筋は両側半月への付着が考えられる為、半膜様筋への介入は、内側と外側を別々で切り分けて考えなくてもアプローチできます!!!

筋賦活、筋機能再教育をしてあげられれば、半月インピンジメントを回避できます。

方法としては...

1.伏臥位にて、膝関節45°屈曲(半膜様筋が大腿骨と平行になる為)
 
2.大腿内旋位(内側を矢状面に)で下腿遠位(筋腱移行部)を把持する
 
3.この状態で等尺性運動(7.9.11秒の3セット)を実施

※3点目の方法ですが、トレーニングに詳しい先生のご意見を伺って実施しているものですので、今回ご説明は割愛させて頂きます。

半膜様筋の筋賦活を促すことで、内側と外側、両側の半月の後方牽引を狙っていて、深屈曲時の膝窩部痛改善が図れます。

勿論、膝窩部痛は半月インピンジメントだけではないのですが、この介入方法は、身体的刺激が比較的少ないので、検査的にも使えて...

この介入で変わらなければ、半月インピンジメントによる膝窩部痛ではない可能性があります。

~参考文献~
 
(1)Cave A, Porteous CJ (1959) A note of the semimembra- nosus muscle. Ann R Coll Surg Engl, 24: 251–256.
 
(2)Kaplan E (1961) Some aspects of functional anatomy of the human knee joint. Clinical Orthopedics, 23: 18–29.
 
(3)Hughston J, Andres JR, Cross MJ (1976) Classification of knee ligament instabilities. Part 1. J Bone Joint Surg, 58: 159–172.
 
(4)Warren L, Marschal J (1979) The supporting structures and layers on the medial side of the knee: an anatomi- cal analysis. J Bone Joint Surg, 61: 56–62.
 
(5)Yao L, Joong LK (1989) Avusion of the posteromedial tibial plateau by the semimembranosus tendon: Diag- nosis with MR imaging. Radiology, 172: 513–514.
 
(6)Kim YC, Yoo WK, Chung IH, Seo JS, Tanaka S (1997) Tendinous insertion of the semimembranosus muscle the lateral meniscus. Surg Radiol Anat, 19: 365–369.
 
(7)Loredo R, Hodler J, Pedowitz L, Yeh R, Trudell D, Resnicket D (1999) Posteromedial corner of the knee: MR imaging with gross anatomic correlation. Skeletal Radiol, 28: 305–311.
 
(8)Beltran J, Matityahu A (2003) The distal semimembra- nosus complex: normal MR anatomy, variants, biome- chanics, and pathology. Skeletal Radiol, 32: 435–445.
 
(9)Sims WF, Jacobson KE (2004) The posteromedial corner of the knee: medial-sided injury patterns revisited. Am J Sports Med, 32: 337–345.
 
(10)Koularis G, Connel D (2005) Hamstring muscle complex: an imaging review. Radiographics, 25: 571–586.
 
(11)Wymenga A, Kats J, Kooloos J, Hillen B (2006) Surgical anatomy of the medial collateral ligament and the pos- teromedial capsule of the knee. Knee Surg Sports Trau- matol Arthrosc, 14: 229–234.
 
(12)LaPrade RF, Morgan PM, Wentorf FA, Johansen S, Enge- bretsen L (2007) The anatomy of the posterior aspect of the knee. J Bone Joint Surg, 89: 758–764.
 
(13)Turman KA, Miller CD, Miller MD (2010) Semimembra- nosus tendon viewed through an isolated medial me- niscus capsular avulsion: a case report. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 18: 760–762.
 
(14)Sussmann, A. Ross.Congenital bilateral absence of the semimembranosus muscles.Skeletal Radiology.2019.
 
(15)林典雄 : 運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹.第二版.メディカルビュー 社.2012.

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